研究実績の概要 |
固体表面のin-situ観測に従来から広く用いられてきた赤外分光法では等核二原子分子である水素分子を多くの場合検出できず,また,NMRや中性子線散乱・自発ラマン分光では表面1分子層(数密度nmol/cm2程度)以下の微量の吸着水素分子の計測が困難である。一方,高分解能電子線エネルギー損失分光法やSTMによる非弾性トンネル分光法ではプローブの電子が衝突する際に電子スピンが水素分子の核スピン転換を誘起してしまうという問題点があり適用が限定的であった。 本研究では,物理吸着水素分子の量子ダイナミクスの解明可能性を探索するべく、こうした既存の計測手法の限界を突破した非線形分光研究に挑戦している。具体的には、当グループの分光システムをベースとして、表面1分子層に感度がある非線形ラマン分光測定を行うための光学系の立ち上げを行った。白色光やOPAを用いたマルチプレックス方式、超短パルスレーザーを用いたインパルシブ励起方式、及び両者方式をハイブリットさせた新方式による非線形ラマン分光を検討した。気相におけるN2, O2分子やH2, D2ガス分子に対する振動回転線の高感度測定に成功すると共に、試料の極低温冷却及び吸着分子数の精密制御が可能な非線形分光チャンバーを新たに設計開発した。特殊な電子共鳴効果やプラズモン電場増強効果を使用すること無しに表面1分子層の吸着系に対する非線形ラマンスペクトルを測定することに成功した。これにより、固体表面吸着分子の量子ダイナミクスの差異を非破壊かつ高感度に非線形ラマン分光で直接観測する新たな方向性を開拓することができた。
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