研究課題/領域番号 |
21K18897
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
後藤 敦 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, グループリーダー (30354369)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 光物性 / 核磁気共鳴 / 強相関電子系物質 |
研究実績の概要 |
固体物性に多様性をもたらしている強相関電子系の特異な電子状態を理解する上で、低エネルギー磁気励起の特徴を理解することは不可欠である。一方、光照射による状態変化はもととなる電子状態を反映しており、その機構解明に重要な手がかりを与えてくれるものと期待される。NMR(核磁気共鳴法)はこれまで強相関電子系の低エネルギー磁気励起の特徴の解明に多くの実績を残してきており、これを光照射下でのその場測定に活用すれば、特異な電子状態の解明に貢献できる。本研究では、低温環境下で稼働する光照射NMRその場測定システムを構築し、それを利用して光照射下でのNMR測定を行うことで、強相関電子系における特異な電子状態の特徴を明らかにすることを目標としている。 初年度となる令和3年度は、本研究の要となる光照射NMRその場測定に向けた新しいプローブの開発を進めた。本測定では、NMR用の検出コイル内においた試料の表面に励起光を照射した状態で、試料温度を制御しつつNMR測定を行う必要があるが、現有のシステムではクライオスタット内で伝導冷却により試料を冷却しているため、最低温度以外では光照射時の温度制御に課題がある。そこで、光照射下で安定して温度制御が可能となるプローブの設計を進めた。 また、光照射下での新しい測定法として、複数の種類の高周波の照射により原子核スピン間の相互作用を検出する多重共鳴NMR法を光照射下で行う「光照射多重共鳴NMR法」の効果を検証した。今回は、試料として半導体ウエハを用い、光照射下での2重共鳴NMR測定を行った結果、異種核スピン間の相互作用を同種核スピン間の相互作用と区別して検出できることが確認された。本手法は強相関電子系の測定にも応用できるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の要となる「光照射NMRその場測定」の実現に向けた測定プローブの概念設計が進展した。また、光照射二重共鳴NMRの新たな測定手法の検証も進展した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に設計を開始した光照射NMRその場測定用プローブの開発を進める。本装置の開発目標は、光照射下において安定した温度制御を実現することである。これまでに行った概念設計をもとに本装置の製作を進め、年度後半には新規装置による検証測定を行う予定である。 また、これと並行して光照射NMR測定の手法の開発も進める。具体的には、前年度に開始した光照射二重共鳴NMR測定法や、NMR分光計を用いて励起光源の高周波変調やタイミング制御を実現する励起光変調型NMR測定法の開拓を進める。特に、前者では異種核スピン間に働く相互作用を直接検出することができるので、ナイトシフトや緩和時間などの従来のNMR測定と組み合わせることで、光励起状態における磁気相関に関する全体像をより正確に把握することが可能となると期待される。まずは現有装置での確認実験を進めつつ、前項で製作する新規装置の完成を待ち、年度後半に本手法の検証を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規測定プローブの実機製作の一部を令和3年度に行う予定であったが、令和4年度にまとめて実施することとしたため、その分の予算を次年度使用額に充当した。令和4年度の予算と合算の上、新規プローブ製作に充当予定。
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