研究課題/領域番号 |
21K18903
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 健 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30507091)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 量子コンピュータ / 電子ダイナミクス / 時間依存ユニタリ結合クラスター |
研究実績の概要 |
2018年ノーベル賞受賞のレーザー技術に基づくアト秒科学は、光反応最初期過程の電子ダイナミクスの直接観察・制御を目指す。その実現には多電子ダイナミクスの信頼できる計算方法が必要だが、量子多体系特有の組み合わせ爆発の問題が伴う。 本研究の目的は、高強度レーザー場中の多電子ダイナミクスのための、NISQ量子コンピュータを用いた量子・古典ハイブリッドアルゴリズムを開発し、実機を使用して現実の問題における最初のアプリケーション成功例を示すことである。時間に依存しない量子化学がNISQ量子コンピュータのキラーアプリケーションであるという認識は広く共有されているが、量子コンピュータの時間依存量子系への適用は簡単なモデル系に留まっている。これに対し本研究は、現実世界の現象であり、アト秒科学で重要な高次高調波発生のシミュレーションに実機量子コンピュータを適用するチャレンジングな提案である。この課題に、申請者が開発してきた時間依存多電子理論にNISQアルゴリズムを組み込み、多体量子情報(一体量子情報)の時間発展を量子コンピュータで(古典コンピュータ)で計算するという戦略で挑む。 2021年度は、古典コンピュータで計算する電子の軌道関数と、量子コンピュータで計算する量子回路パラメータを両方とも時間発展させる時間依存最適化ユニタリ結合クラスター法(TD-OUCC)の世界初の開発に成功し、量子回路エミュレータを用いた数値検証を行った。高強度フェムト秒パルス(波長800 nm、強度4×1014 W/cm2)をHe原子【J. Phys. B: At. Mol. Opt. Phys. 47, 204031 (2014) 】に照射するシミュレーションを行なったところ、高次高調波発生を精度よくシミュレーションできることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定では2021年度に時間依存ユニタリ結合クラスター法の理論開発を完了し、2022年度前半に量子回路シミュレータqulacsを用いた数値実証を行う予定であったが、2021年度末までに、古典コンピュータで計算する電子の軌道関数と、量子コンピュータで計算する量子回路パラメータを両方とも時間発展させる時間依存最適化ユニタリ結合クラスター法(TD-OUCC)の開発とqulacsを用いた実装、およびた数値検証までを完了した。従って本研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は量子コンピュータ実機IBM Quantumを用いた実証計算を完遂する。そのためにまず、2022年度前半までに時間依存最適化ユニタリ結合クラスター法をIBM Qiskitで実装し、Qiskit上の量子回路シミュレータを用いて前年度に行ったqulacs上の量子回路シミュレータの計算を再現できることを確認する。次に量子コンピュータ実機のノイズをモデル化したシミュレータを用いた数値実験によって実時間発展におけるノイズの影響を吟味し、読み出しエラー低減等を実装する。ここまでの開発を総動員し、高強度レーザーに照射された希ガス原子からの高次高調波発生の実機シミュレーションを実現し、ハード・ソフト両面で次の課題を洗い出す。
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