研究課題/領域番号 |
21K18904
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 一隆 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302979)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | フェムト秒 / コヒーレントフォノン / アト秒精度 |
研究実績の概要 |
サブ10fsレーザーを用いたポンプ・プローブ型過渡反射率/透過率計測システムにおいて、ポンプ光をアト秒精度で相対位相制御したパルス列を生成する干渉計の両方のアームに1/2波長板と偏光子を導入した。これにより、各ポンプパルスの偏光角度を試料の結晶軸に対して任意に制御できるようになった。改良した装置を用いて、単パルス励起でダイヤモンドのコヒーレント光学フォノン(25fs周期)を計測し、ポンプ偏光依存性とプローブ偏光依存性を測定した。計測された偏光角度依存性は、瞬間的誘導ラマン過程によるコヒーレントフォノンの場合でも、通常のラマンテンソルの角度依存性を満たすことを確認した。さらに、相対位相制御パルス対を用いた、コヒーレント光学フォノンの制御実験も行った。各ポンプパルスで励起された光学フォノンの建設的干渉と破壊的干渉の様子が確認された。パルス対の偏光が平行偏光条件と直交偏光条件で、建設的干渉と破壊的干渉が逆転することが見出された。 さらに、プローブパルス光路にも高精度光学干渉計を組み込み、偏光角度と相対位相を制御したダブルパルス計測ができるような改良を行った。干渉計はアト秒の時間精度でコントロールでき、ポンプパルス光路の干渉計と同時に制御できるようにした。 理論研究としては、電子状態として電子基底状態と2方向に分裂した電子励起状態を用い、フォノンを調和振動子としてモデル化した量子理論計算を行った。電子フォノン相互作用の対称性にダイヤモンドのラマンテンソルを用いて、パルス対励起による光学フォノン生成の計算を行い、実験で得られた偏光依存性を再現することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、偏光制御したフェムト秒パルス列を用いたポンプ・プローブ型のフォノンエコー計測法を開発し、フォノンデコヒーレンスの計測を行うことである。フォノンエコー計測システムでは、ポンプパルスとプローブパルスの両方を偏光制御したパルス列にし、さらにそのパルス間隔を精緻に制御する必要がある。本年度はサブ10fsレーザーを用いた計測システムにおいて、ポンプパルスをダブルパルス化する光学干渉型の各アームに1/2波長板と偏光子を組み込むことで、ポンプパルス対の相対偏光角度を精緻に制御できるようになった。また、その装置を用いてダイヤモンドのコヒーレント光学フォノンを測定し、偏光依存測定を確認することもできた。また、コヒーレント光学フォノンの偏光特性が通常のラマンテンソルを用いて解析できることを確かめることができ、フォノンエコー測定で大事になる励起フォノンからの発光を偏光により選別できることが分かった。この計測で必要となる、プローブパルスのダブルパルス化のために、プローブ光路に新規の干渉計を作成した。この干渉計はアト秒精度でのパルス間隔制御ができ、各パルスの偏光も制御できるようになっている。また、この干渉計の制御を、ポンプパルス光路の干渉計のコントローラを用いて行えるようにすることで、ポンプパルス対とプローブパルス対の間隔の制御が可能になった。さらに、偏光を考慮した光学フォノン生成および制御の量子理論モデルを整備することができた。 以上の理由から研究は順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に作成したプローブパルス経路の干渉計を、実際にポンプパルス経路の干渉計と同期制御できることの動作確認を行う。その際に各パルスの偏光も制御して4パルス間における相関を、第二次高調波発生を用いた自己相関計測によって確かめる。 ダイヤモンドコヒーレント光学フォノン計測では、単パルス励起でコヒーレントフォノン励起を行い、その振動をダブルプローブパルスを用いて計測する。ここで、2番目のプローブパルスは1番目のブローブパルスとの相互作用のよる励起からの発光をヘテロダイン測定するための参照パルスとして用いる。二つのプローブパルスの偏光角度およびパルス間隔によるシグナル光強度の変化を調べる。この結果を踏まえて、ダブルパルス励起とダブルプローブ計測を合わせた合計4パルスでのコヒーレント光学フォノン計測を行う。特に、ポンプパルス対間隔とプローブパルス対間隔の相対的な変化がフォノン振動シグナル強度および寿命に及ぼす効果を調べる。 実験は開発事項の確認も含めてダイヤモンドを基本サンプルとして行うが、他のサンプルや室温以外での計測可能性についても検討を行う。 理論では、コヒーレントフォノン生成と制御の量子モデルを、プローブ過程に適用できるように改良する。その際に、ダブルプローブパルスを用いたヘテロダイン検出の理論構築を行う。その後、ポンプからプローブまでの過程を統一的に扱えるような理論へと拡張する。さらに、フォノンレベルに分布を持たせることで不均一幅広がり効果を組み込み、フォノンエコー過程に対応する量子経路の理論計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
高精度干渉計を作成するために、当初本予算で購入予定であったフィードバックステージとステージコントローラについては別予算で購入したステージとコントローラを用いて干渉計を作成することができたため、この費用は次年度に使用することになった。学会発表等のために計画していた旅費については、コロナ感染拡大の影響のため、学会開催中止やオンランイン開催のために、使用しなかった。実験システム構築のために必要な光学部品についても、既存の光学部品類を用いることで構築できたため、使用しないですんだ。 次年度はフォノンエコー実験に関して、ダブルポンプパルスとダブルプローブパルスを使った実験を行う予定であり、実験を遂行するために必要なレーザー部品、光学部品などの物品導入に使用する。また、これまでの研究成果を学術誌に投稿するための、英文校閲、投稿費用、オープンアクセス費用などや学会発表の経費に使用する計画である。
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