本件研究では、次世代パワー半導体として注目されているβ相酸化ガリウム(Ga2O3)において課題とされているエピタキシャル結晶成長技術をoxide vapor phase epitaxy (OVPE)法により実現することを目的とした。c面サファイア上へのヘテロエピタキシャル成長を試みたところ、(-201)面配向のβ層酸化ガリウム結晶膜が得られた。(001)面及び(010)面バルク酸化ガリウム基板上のホモエピタキシャル成長についても、基板の品質を引き継いだ状態での結晶成長に成功した。品質評価としては、アルカリ融液エッチングの条件を最適化し、出現したピット密度から転位密度を評価したことに加え、X線ロッキンカーブ半値幅による評価を実施した。 実験で得られた酸化ガリウム結晶の成長駆動力と成長温度及び水素濃度の関係は、熱力学計算結果とよく一致することも明らかになった。熱力学計算は、Ⅵ族源としてH2OだけでなくO2やCO2等の他の酸化物についても実施し、各々の平衡定数や駆動力の比較を行った。O2は平衡定数が高く、気相中での粉体生成抑制が困難であることからH2Oでの実験が粉体を抑制した状態での結晶成長に最適であるという結論に至った。 不純物濃度についてもSIMS測定により分析した結果、塩素については検出下限以下であり、原料としてGaClではなくGa2Oを用いるOVPE法の利点を示すことができた。一方、Ga2O3の粉体生成抑制のため水素やH2Oガスを使用することから、炉内の石英管と反応し、その成分であるシリコンが程度の濃度で結晶中に含まれることも明らかになった。シリコン不純物については、今後部材の変更等で低減していきたいと考えている。 以上のように、本研究では高純度化に少し課題が残る一方、OVPE法により初めてβ酸化ガリウム結晶のエピタキシャル成長が可能であることを実証することができた。
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