研究実績の概要 |
本研究は、生物が鉱物を作り出す反応であるバイオミネラリゼーションを用いた化合物半導体の結晶成長に関するもので、その機構の解明を最終目的としている。研究初年度の昨年度は、研究代表者と分担者の一人が海洋細菌叢を用いた硫化鉛(PbS)とGaAs系化合物の合成に取り組み、PbS微結晶やGa, In単体の凝集体が合成できていることを確認した。当該年度は、その結果を基に、Ga、In、Asに耐性のある2種類の光合成細菌叢を用い、試験管にてIn, Ga, As, InGa, GaAs, InAs, InGaAsの計7種類の組み合わせとなるよう各金属イオンを添加し、常温・蛍光灯下で15日間静置培養を行った。培養後に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて菌体の形態および合成物の局在性を観察した。また、培養後の菌液を遠心分離し、その上清の金属イオン濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)によって測定した。TEM観察の結果、細菌体の外側に合成物が確認でき、TEM装置付属のエネルギー分散型X線分光法で合成物にGa, In, Asが含まれていることを確認した。その上で、ICP測定によって、有している光合成細菌叢によるGa, In, Asの各回収率を算出することができた。PbS微結晶を合成する細菌叢については菌叢解析を行い、菌叢内のどの細菌種が結晶形状の制御に寄与しているか推測する段階まで到達した。また、別の分担者と代表者は、海洋微生物が合成したセレンと鉛で構成される非晶質状の沈殿物を熱処理することで、今後の結晶化への方向性を見出すことができた。更にもう一名の分担者からの試料提供により、研究代表者の実験室にて生物合成半導体の光吸収測定系の構築も行うことができた。これらを総合し、2年の研究期間で、細菌が半導体結晶を形成する機構の解明に向けてどの点に着目して細菌の作用と得られた物質の結晶性を詳しく調べるべきか、方針を立てることができたと判断している。
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