研究課題/領域番号 |
21K18916
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千田 太詩 東北大学, 工学研究科, 准教授 (30415880)
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研究分担者 |
新堀 雄一 東北大学, 工学研究科, 教授 (90180562)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 原子力 / 放射性廃棄物 / バックエンド / 核種固定化 / 花崗岩 / 収着 / 雲母 / 核種移行 |
研究実績の概要 |
放射性廃棄物処分において,核種を閉じ込めるバリア性能が期待される天然岩盤には,核種収着能に優れた雲母鉱物が含有される.従来,核種と鉱物の相互作用検討には鉱物を粉砕した粉末試料が用いられてきたが,岩盤中の雲母は層状構造を有し,数cm程度の薄片形状で存在する.本研究では,薄片状雲母を用いた実験検討により,粉末試料ではわからなかった核種収着メカニズムを解明し,天然岩盤にさらなる核種閉じ込め性能を見出すことを目指す. 本研究では,検討事項(1):薄片状雲母への陽イオン収着機構解明,および,検討事項(2):薄片状雲母への陽イオン収着に関する数値解析,の2つの検討事項を設定している.初年度は,計画に沿って検討課題(1)の実験体系の整備を進めた.実験では,3 gの薄片状黒雲母(5×6 mm大)とユウロピウム(Eu)溶液 30 mLをポリプロピレン容器に封入し,25℃の恒温振とう機にて振とうした.開始から7日に亘り,1日ごとに溶液を採取してEu濃度を測定し,同濃度および同量の溶液を容器に戻すことにより,溶液条件や液固比が変化しないようにした.さらに,収着実験7日後に固液分離し,固相を0.01 mM硝酸溶液で洗浄した後,0.6 M塩化ナトリウム溶液30 mL添加して脱着実験を行った.その結果,収着実験においてEu濃度が時間経過とともに緩やかに低下した.黒雲母を粉砕した粉末試料の場合には収着実験開始直後にほぼ全てのEuが収着しており,薄片状黒雲母を用いた本研究の結果からはEuが薄片内へ拡散浸入しながら収着すると考えられる.また,脱着実験においては,収着量の1割程度の脱着が実験開始直後に確認されたものの,その後2ヶ月に亘りEu脱着量は増加しなかった.このことから,薄片端部に収着したEuはNaと速やかにイオン交換して溶出するものの,薄片内部に拡散浸入したEuは脱着しづらい状態にあることが示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度となる令和2年度に行った,薄片状黒雲母を用いたEuの収着挙動および脱着挙動に関する検討は研究実施計画に沿うものである.また,本研究申請前より予備的に検討してきた実験手法について,適切なデータ取得のための見直しを今年度は行った.予備的に検討した収着実験手法では,薄片状黒雲母とEu溶液を混合した試料をサンプリング回数分用意して,所定時間毎に一試料を開封,固液分離してEu濃度の経時変化を調べた.しかし,薄片状黒雲母が天然鉱物であることに起因するEu収着量の固有差が大きく,Eu濃度の時間変化を把握することが容易ではない状況にあった.そこで今年度は実験手法を見直し,薄片状黒雲母とEu溶液を混合した試料を一点用意し,サンプリングした溶液と同じEu濃度の溶液を試料容器に同量戻して溶液条件および液固比を保ちつつ収着および脱着実験を行うこととした.その結果,時間の経過に伴うEu濃度の緩やかな低下を明確に観察することができ,Euが薄片状黒雲母の端部においてイオン交換により収着するのみならず,拡散によって薄片内部へ浸入するという,研究計画時に想定した収着過程の存在を支持する結果が得られた.また,脱着実験では,塩化ナトリウム溶液を用いてNaとの陽イオン交換を促した場合においても収着したEuの大部分が薄片状黒雲母から溶出しなかったことから,薄片内に拡散浸入したEuが陽イオン交換しづらい状態で固定化されている可能性が示された.鉱物と核種の相互作用は収着および脱着による平衡状態として従来扱われているが,今回得られた結果は薄片状黒雲母へEuが不可逆に収着していることを意味し,処分システムを構成する天然岩盤に半永久的な核種閉じ込めバリア性能を期待できる可能性が示唆された. 以上のように当初計画以上に薄片状黒雲母による核種固定化の可能性が得られつつあることから「当初の計画以上に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に述べたように,本研究では目的達成のために2つの検討事項を設定している.次年度以降においても,令和2年度に得られた知見や,整備した実験手法を反映しながら,研究計画に沿ってこれらの検討を次年度および最終年度に亘って推進する. <検討事項(1):薄片状雲母への陽イオン収着機構解明> 本検討事項では,陽イオン形態をとる核種の薄片状雲母への収着挙動について実験的に検討するとともに,それらに基づく固定化メカニズムの解明を進める.収着および脱着実験においては,薄片状黒雲母と核種の相互作用をより精緻に追跡する実験手法を令和2年度に整備しており,これを活用する.この実験検討に際し,次年度は特に温度の影響に着目する.地下の温度勾配は深度100 m毎に温度が約3℃上昇することが知られており,深地下への放射性廃棄物処分においては温度依存性を考慮する必要がある.また,一般的に,化学的な相互作用を検討する上で温度依存性の知見は重要である.そこで,地表温度から処分環境温度を想定した15~40℃の範囲でパラメータを設定して,薄片状黒雲母へのEuの収着挙動を調べ,温度依存性に基づく活性化エネルギーの評価等を通じて収着機構の考察を深める. <検討事項(2):薄片状雲母への陽イオン収着に関する数値解析> 本検討事項では,薄片状雲母内部におけるトレーサーの拡散浸入を反映した物質移行モデルによる解析を実施する.解析においては,検討事項(1)にて得られた液相中のトレーサー濃度変化と薄片状雲母内部のトレーサー拡散を関連づけて,薄片内部におけるトレーサーの拡散浸入および浸出を速度論的に評価する.これらを通して次年度は,核種移行評価上重要となる,薄片状雲母内におけるトレーサーの拡散係数の取得を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 情報収集や成果発表のために参加する予定だった会議がコロナ流行に伴いオンライン開催となったために旅費を使用しなかったことや,学内における飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)分析の使用料が別途支弁できたため,差額が生じた. (使用計画) 次年度使用額については,検討事項(1)の「薄片状雲母への陽イオン収着機構解明」における実験検討の進捗にあわせ,鉱物試料や試薬の購入に充当する予定である.
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