研究課題/領域番号 |
21K18917
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 嘉夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10304396)
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研究分担者 |
佐々木 隆之 京都大学, 工学研究科, 教授 (60314291)
山口 瑛子 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究職 (80850990)
出井 俊太郎 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 核燃料・バックエンド研究開発部門 幌延深地層研究センター, 研究職 (90870709)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 粘土鉱物 / 放射性核種 / 放射性廃棄物 / 還元反応 |
研究実績の概要 |
使用済原子力発電用燃料などの高レベル放射性廃棄物は、地下深く埋設する地層処分が想定されており、最後の砦となる花崗岩によるUの固定化が生命圏への放射性核種の流出を防ぐために重要である。Uを還元して析出させるホスト相の1つに黒雲母が報告されているが、未風化と風化した黒雲母のいずれがUをより還元できるかについては明確にされてない。本研究では、風化黒雲母によるUの還元反応による固定や人形峠旧ウラン鉱床から採取した黒雲母中のUの分布状態の把握と還元固定化メカニズムの解明を行った。人工風化黒雲母にUを吸着させてXANESスペクトルを取得し、線形結合フィッティングにより解析したところ、約30 %がU(IV)として観測されたため、還元がほぼ無視できる未風化の黒雲母に比べて風化処理した黒雲母でUがより還元されることが明らかになった。pH6とpH4ではpH4の方が還元種が多いことは、風化により膨潤した雲母層間でU(VI)の還元反応が顕著に進行することを示唆している。さらに薄片化した人工風化黒雲母のmicro-XRF-XANESによる分析でU(IV)の割合は43 %~89 %となったことも、この推論を指示する。また、人形峠コア試料より採取した黒雲母をTES-micro-XRF-XANESにより分析した結果から、約30 %のU(IV)の存在が確認され、風化した黒雲母がUを還元して保持していることを明らかにした。これらの分析から、U(VI)の還元は、風化の進行に伴い膨潤した風化雲母層間で生じると考えられ、このことは2:1型粘土鉱物によるU(VI)の還元でも層間での還元が主とする研究とも整合的である。これらの成果は、砂岩型U鉱床における黒雲母へのUの濃集機構の理解や、放射性廃棄物地層処分における緩衝材として利用されるモンモリロナイトへのUの還元による固定の検討において重要な貢献をする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Uなどの微量元素の環境中での化学種や局所分布の解析には、X線吸収微細構造(XAFS)法、蛍光X線分光(XRF)法(特に高感度なXAFS測定では、蛍光XAFS法が重要)などが有効であるが、その適用には以下の問題点があった。(i) 地殻中の濃度が比較的高いルビジウム(Rb)とXRFが干渉するため、その分析には高いエネルギー分解能を持ったXRF分析法や蛍光XAFS法の開発が必要(Yamamoto et al., 2008)、(ii) UのL吸収端XANESはブロードな1つのピークを与えるのみでU(IV)とU(VI)の価数判定には利用できるがそれ以上の微細構造がないため詳細な化学種解明が困難、(iii) 原発事故や廃炉などで問題となるミクロン/サブミクロンサイズの含U微粒子の顕微X線分光法を用いる場合、ビームの安定性などによるXAFSの質の低下が問題になる、などの分析化学的課題がある。そこで本研究では、本研究では、これらのUの環境化学・地球化学研究を推進すべく、(1) 高エネルギー分解能蛍光検出-X線吸収端近傍構造(HERFD-XANES)法による高精度Uスペシエーション、(2) 高エネルギー領域の透過型X線顕微鏡(TXM)およびイメージスタック法によるU微粒子スペシエーション、(3) 超電導転移端センサー(TES)をX線検出器に利用したマイクロビームX線蛍光分析-XANES(マイクロ-XRF-XANES)法の開発を行い、本研究を推進した。これらは本研究が分析的にも順調に進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに、天然でも存在すると考えられている5価のウラン(U(V))の検出もHERFD-XANES法により進める。実は過去に1例ある、X線光電子分光による黒雲母中のウランの研究では、U(V)の存在が示唆(Ilton et al., 2005)されてきた。しかし、本研究の結果からは黒雲母中でのU(V)の生成は認められなかった。これは、近年のGoethiteの分析例において、U(V)は鉄との電子授受で鉱物表面で安定化する(Stagg et al., 2021)とされており、光電子分光法が表面情報を選択的に得るのに対し、XANESではバルク的な分析であるために、検出されなかった可能性がある。このことを確認するためにも、HERFD-XANES法により詳細なウランの価数分析は今後重要になると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
岩石試料の分解に使用するドラフトチャンバーが故障したため、当装置の修理・調整に時間を要したため。
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