研究課題/領域番号 |
21K18925
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮坂 等 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50332937)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | ホストーゲスト間相互作用 / 電荷移動型錯体格子 / 磁気変換 / 多孔性材料 / ヨウ素 |
研究実績の概要 |
本挑戦的研究では、「特定のゲスト分子に対して電気的・磁気的信号を発信するゲスト応答型多孔性分子材料」の開発を目指し、酸化還元活性なゲスト分子に対してホスト-ゲスト間電子移動を起こす多孔性分子格子を創製することを目的としている。電荷移動型の錯体格子としては、これまで当研究室で研究展開されてきた水車型のルテニウム二核(II,II)錯体(電子ドナー;D)とTCNQ誘導体(電子アクセプター;A)からなるD2A型二次元層状材料をターゲットとする。本年度は、TCNQ-を有する一電子移動型またはTCNQ2-を有する二電子移動型のD2A-MOFにおける、ヨウ素挿入によるTCNQn-のホスト-ゲスト間電子移動誘発を計画した。その結果、新たな一電子移動型D2A-MOF(ゲストフリー体はTN = 84 Kの反強磁性体)を開発し、ヨウ素を反応させることにより、常磁性体に変換する磁気相変換を見出した。本系は、加熱脱気することにより元のゲストフリー体に戻る(磁気相スイッチング)。その場測定を含めた詳細な検討により、細孔内で2(TCNQ-)+3I2 →2TCNQ + 2I3-の反応が起こっていることが確認された。これは、ホストーゲスト間電子移動により磁気相変換を実現した初めての例である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「ホスト-ゲスト間電子移動をトリガーとする多孔性分子磁石を創製」を目標として、本年度はヨウ素を吸着させることで、反強磁性相から常磁性相へと変換可能な新たな多孔性材料の開発に成功した。今回開発された材料は分子性多孔性材料の一種で、層状構造になっており、その層の間にジクロロメタンやヨウ素などの小分子を出し入れできる。この分子性多孔性材料は反強磁性体であり、ヨウ素を吸着させると磁石ではなくなる(常磁性状態)ことを確認した。逆にこの材料は、真空加熱処理でヨウ素を脱離させることにより、元の状態へと戻る。本現象は、吸着されたヨウ素分子が分子格子から電子を受け取ることで、分子格子の電子状態を変化させ、磁気秩序を持たない状態になることで生じたものである。このような吸着分子とホスト骨格の間で直接電子の授受を行うことで駆動する可逆磁気相変換はこれまでに例はない。本結果は、東北大学からプレス発表された。論文に関しては、年度を跨いで掲載されたため、来年度の業績として挙げる。
|
今後の研究の推進方策 |
今回のヨウ素をゲストに用いた磁気変換システムは、ヨウ素という非常に酸化還元能力の高いゲストを用いて実現している。それ自体は極めて重要な結果であるが、可能であれば、より一般的な酸素のようなガス分子に対して電荷移動を起こすような錯体格子、錯体磁気格子の設計を目指したい。以下3つの格子設計を計画している。 1)N,7,7-tricyanoquinomethanimine (TCQMI)のD2A-MOFへのサイト置換による部分欠陥D2A格子の設計。酸素分子との反応による物性制御を計画しているが、欠陥ルテニウムサイトに酸素が直接相互作用することを期待したい。 2)benzamidine系の配位子を用いた水車型ルテニウム二核(III,III)錯体を用いた新たなD/A-MOFの設計を行い、ホストーゲスト相互作用による磁気変換を図る。 3)分子内水素結合によりHOMOレベルが調整される電子ドナー錯体を用いたD/A-MOFの設計とホストーゲスト相互作用による磁気変換。格子の水疎結合にアプローチするゲストを用いることで、電子ドナーのHOMOレベルを調整して格子内電荷移動を制御することを図る。
|