研究課題/領域番号 |
21K18926
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 正彦 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (80241579)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 分子軌道イメージング / 運動量空間分子分光 / 配向分子 / 電子運動量分光 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多原子分子一般を対象にして分子軌道一つ一つの空間的形状を運動量空間で三次元観測する手法を開発し、運動量空間分子分光を飛躍的に深化・展開することである。 上記の目的を達成するため、本研究計画初年度の2021年度においては、まず実験の基本原理の詳細な検討から開始した。具体的には、シミュレーションプログラムを開発し、レーザー電場強度と分子回転温度の双方をパラメータとして、非共鳴レーザーパルス電場により生成する回転波束とその時間発展を調べた。その結果、研究代表者が現有のレーザー設備(120 fs, 5 kHz, 4 Wのチタンサファイアレーザー)の高強度化が望ましいことが明らかになったので、5 kHzから1 kHzへとレーザーの周波数変更を行った。これにより、利用できるレーザー光強度が5倍となり、レーザー電場による分子配列度の大幅な向上が期待できる。さらに、このシミュレーションを通して、本研究課題のもう一つの実験的困難であるvelocity mismatch効果を未然に防ぐ実験原理を得た。通常はレーザー電場により生成する配列分子は約1ピコ秒程度の瞬時的にしか存在しないため、用いるパルス電子線の時間幅も1ピコ秒程度幅に制限せざるを得ず、その結果、電子線強度が桁違いに弱くなる。しかし、我々が得た実験原理によれば、数ナノ秒程度幅のパルス電子線を用いてもなお、配列分子による電子散乱を観測できるので約3桁の信号強度の向上が図れるほか、velocity mismatch効果も無視し得る程度に激減できる。そこで、この原理に基づき、実験装置の改造を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は予期していた以上に極めて順調である。その最大の理由は、上記の回転波束シミュレーションを通じて、本研究計画申請時に想定していた実験と比較して、遥かに容易な実験技術で遥かに高度な質の実験データを得るための新しい実験原理の着想に至ったことである。非弾性散乱電子および電離電子の電子衝突イオン化で生成する二つの荷電粒子のトラジェクトリ―計算の結果は、この着想を具現化すれば、実験データ統計の3桁違いの改善に止まらず、分子軌道毎に分けて波動関数形を観測するためのエネルギー分解能など他の多くの実験パラメータの質的向上が果たせることを示唆する。そこで、その新しい実験原理の着想に基づいて、パルス電子銃、超音速パルス分子線源、等の装置要素の設計を終え、現在、試作中である。 一方、レーザー電場による分子配列度の大幅な向上を図るために行った、研究代表者が現有のレーザー設備(120 fs, 5 kHz, 4 Wのチタンサファイアレーザー)の高強度化も予期した通りに実現できた。すなわち、5 kHzから1 kHzへとレーザーの周波数変更を行った結果、利用できるレーザー光強度が5倍となった。 唯一の懸念点は、2022年3月16日に発生したM7.4の福島県沖の地震により、上記レーザーのパルス幅と光強度の双方で性能が著しく劣化したことである。国の速やかな地震復旧支援を恃むところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は、上記レーザーの地震被害復旧のスピード次第で大きく異なる、そこで、以下の両面対策を並行して進める。 一つは、地震被害復旧が速やかに行われた場合である。ここでは、本研究計画二年目の2022年度においては、前年度に整備した装置要素を組み合わせて実験装置をシステムとして完成させ、分子の配列度、パルス電子線のビーム強度、散乱領域の大きさ、電子エネルギー分析器の分解能など実験条件を最適化する。その後、窒素分子やヨウ化メチル分子等を対象として、「分子軌道の三次元観測法の開発と運動量空間分子分光の展開」研究の予備実験を開始する。 もう一つの対策は、地震被害復旧がやや遅れ、レーザーの性能復帰作業が2023年度に延期になる場合である。ここでは、本研究計画二年目の2022年度においては、窒素分子やヨウ化メチル分子等を対象とした配列分子の電子運動量分光実験を2022年度中に行うことは不可能であるので、レーザーの性能復帰がなされた後速やかに「分子軌道の三次元観測法の開発と運動量空間分子分光の展開」研究を開始することができるよう、従前の空間平均した分子による電子運動量分光実験を通してレーザー光と関係のない他の設備の最適化を図る。
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