研究実績の概要 |
本研究の目的は、多原子分子一般を対象にして分子軌道一つ一つの空間的形状を運動量空間で三次元観測する手法を開発し、運動量空間分子分光を飛躍的に深化・展開することである。 上記の目的を達成するため、本研究計画初年度の2021年度においては、非共鳴レーザーパルス電場により生成する回転波束の時間発展シミュレーションの詳細な検討を行い、申請段階当初のものと比較して格段に優れた実験原理を得た。そして、当該原理を踏まえ、研究代表者が現有していたレーザー設備(120 fs, 5 kHz, 4 Wのチタンサファイアレーザー)の5kHzから1 kHzへの周波数変更、および実験装置真空槽の設計と試作を行った。研究計画二年目の2022年度においては、本研究課題のもう一つの実験的困難であるvelocity mismatch効果を未然に防ぐ実験条件の探索を行った。その結果、通常はレーザー電場により生成する配列分子は約1ピコ秒程度の瞬時的にしか存在しないため用いるパルス電子線の時間幅も1ピコ秒程度幅に制限されるが、数ナノ秒程度幅のパルス電子線を用いてもなお、配列分子による電子散乱を観測できることを見出した。これにより、約3桁の信号強度の向上とvelocity mismatch効果の解消を期待できる。そして、この方針に基づき、実験装置の改造を行った。 本研究計画最終年度の2023年度においては、通常の空間平均したオービタルイメージング実験を行うことにより改造した実験装置の性能チェックを行い、満足すべき結果を得ている。また、2022年3月16日に発生したM7.4の福島県沖の地震により稼働不可となった現有レーザーの代替品が納入された2023年9月以降、分子軌道の三次元観測実験を開始し、各種実験パラメータの調整を図っている。以上のように、本研究が目的とする「分子軌道の三次元観測法の開発」に成功した。
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