研究課題/領域番号 |
21K18928
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
平田 修造 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (20552227)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 室温りん光 / 蓄光 / 超解像イメージング / 三重項励起状態 / 2光子イオン化 / STED / 励起子消滅 |
研究実績の概要 |
蓄光を用いると自家蛍光に依存しないイメージングが可能であるが、蓄光は一般的に励起光強度を大きく増加させ際に輝度が増加しないため、高分解能の像を観測する手法には活用されてこなかった。一方で長寿命室温りん光を用いると回折限界域の分解能の蓄光挙動を計測することが可能である。しかし、光の回折限界を超える分解能で蓄光挙動を得た例はない。 本研究では超解像蓄光イメージングとそれを実現する分子の光物理過程の解明に挑戦する。 上記目的の実現のために新規三重項消去の現象を活用する。三重項失活の抑制能が強いホスト分子に高効率長寿命室温りん光能を示す色素をドープした薄膜において、励起光照射停止直後の長寿命室温りん光が観測されている間に、励起光に対してより長波長側光(デプレッションビーム)を高強度で照射すると、長寿命室温りん光強度が大幅に減少する。この原理を用いると、回折限界までに絞った箇所にドーナツ型の空間分布を示すデプレッションビームを協働的に照射することで、長寿命室温りん光の高解像化や超解像化が期待される。研究期間では、デプレッションビームを照射することによる長寿命三重項励起子の消失メカニズムを明確化、そして超解像の高輝度蓄光像を得ることに取り組む。 本研究は非接触高解像・超解像イメージングに蛍光が必要という概念からの脱却し、蓄光での非接触超解像イメージングを可能とする変革・転換に挑戦するものである。新しい三重項消去と分子再生のメカニズムはサイエンスとしても意義深く、自家蛍光フリーな超解像蓄光は次世代のユビキタス高性能イメージングとし重要な分析ツールとなる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三重項失活の抑制能が強いホスト分子に高効率長寿命室温りん光能を示す色素をドープした薄膜において、励起光照射停止直後の長寿命室温りん光が観測されている間に、励起光に対してより長波長側光(デプレッションビーム)を照射したところ、長寿命室温りん光が消失することが確認された。さまざまな波長のデプレッションビームを強度を変化させて照射する実験を通して、この長寿命室温りん光の消失は、デプレッションビームにより最低三重項励起状態からのイオン化反応により生じることが確認された。 この励起光とデプレッションビームを協働的に利用して高解像顕微鏡下でガウス状の強度分布の励起光にドーナツ状の強度分布を有するデプレッションビームを重ね合わせる形で回折限界まで絞り照射した。その結果、デプレッションビームの存在下では、CCD検出器において、もともとのガウス形状の蓄光強度分布に対して、蓄光強度分布の先鋭化が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
デプレッションビームにより最低三重項励起状態からのイオン化反応が生じる挙動を、イオン化によって材料中に蓄積した電荷を超微弱電流の温度依存性を計測することで明確にする。このデータと2021年度に得ているデータとを合わせて学術論文化する。 また2021年度の結果から励起光とデプレッションビームにより回折限界を超える長寿命三重項状態の励起が可能になっていると考えられる。一方で現在蓄光を検出するためにはCCDを用いているために、蓄光の像はぼやけた形で観測され回折限界を超えることはない。それゆえ、本年は検出系をピンホールと高電子増倍管の系にして、試料をピエゾステージで動かすことで、回折限界を超える形で形成されていると考えられる超解像の長寿命三重項状態を、回折限界を超える蓄光挙動として確認することを目指す。 また薄膜ではなく長寿命室温りん光を示すナノ結晶を構築して、ピエゾステージをスキャンすることでその粒子から回折限界を超える蓄光粒子像の取得を目指す。
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