本研究では、近年発展の著しい量子情報の知見を導入・援用した量子「インスパイアード」アルゴリズムによる、相対論的量子化学のための電子状態理論の開発を目指した。研究方法としては、化学系の量子コンピューティングで使われる電子系から量子ビット系への変換を軸として、ニューラルネットワーク量子状態(NQS)とスタビライザー状態の利用という2つのアプローチの実装を目標とした。初年度は、制限ボルツマンマシンを用いたニューラルネット波動関数の相対論的量子化学への応用に向けて、4成分相対論理論に基づく第2量子化ハミルトニアンを量子ビット系に変換する方法を実装した。2年目は、スタビライザー状態を生成・利用するためのクリフォード回路に関する研究を行い、クリフォード回路を変分的に最適化する手法であるCAFQAを粒子数対称性などを考慮した形で実装した。また、フェルミオン影像法による高次RDMの効率的構築法に基づくMRCI計算をモデルハミルトニアンについて実施した。最終年度は、前年度までの研究成果を踏まえ、クリフォード回路を使った相対論的量子化学計算を実施した。さらに、派生研究として、二成分変換を基底関数の縮約に組み込むTIC技術を開発し、相対論的量子化学計算の効率と精度を同時に向上させることに成功した。本研究の成果は、今後詳細な数値検証が必要ではあるが、相対論的量子化学計算における新たな理論的アプローチを提案するものとなっている。
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