前検討により得られている極性結晶K2MnN(CN)4.H2Oの単結晶試料を用いて、直流バイアス電場下における交流インピーダンス測定を行った。測定に先立ち、単結晶X線回折測定を利用して、結晶面の解析を行ったところ、ロッド形態の側面に極性方向であるc軸が向いていることが分かった。そこで、極性軸方向に電極を付けた単結晶を準備し、湿度制御下において交流インピーダンス測定を行った。まず、湿度80%・バイアスなしの条件で測定したところ、室温では5.0*10-5 S/cmのプロトン伝導度を示し、温度変化測定からは活性化エネルギーが0.42 eVと見積もられた。さらに、正負それぞれの方向にバイアスをかけた測定から、バイアスによる顕著な伝導度の低下が観測された一方で、伝導度変化に関してバイアス方向での明らかな違いが確認された。現在のところ、バイアスは極性骨格に対して摂動を与えることで、プロトンが移動するチャネルサイズを変化させていると考えている。詳細なメカニズムについては、計算などの手法からも検討を行っているところである。 また、上記の物性解析に並行して、新規の極性錯体合成も行った。[MnN(CN)4]2-錯体と種々のカチオン種を組み合わせた合成検討を行ったところ、テトラエチルアンモニウムとの組み合わせにおいて、水およびメタノールを結晶溶媒として含む場合、極性構造をとることを見出した。第二次高調波発生(SHG)の応答性も確認された。さらに、脱溶媒により無極性構造転移を示し、可逆的な極性変換が可能であることも明らかにした。
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