研究課題
前年度に引き続き、極性プロトン伝導体K2MnN(CN)4.H2Oの単結晶試料を用いて、強誘電特性の評価を行った。特に、Positive-Up-Negative-Down法を用いて、パルス間の時間を変えた測定を行い、伝導プロトンの遅い緩和現象と分極現象の相関に関して検討した。結果としては、パルス間の時間を0秒から300秒まで延ばすにつれて、徐々に分極値の減少が観測された。これは、電場によりチャネル内で偏ったプロトンが緩和することで、プロトン伝導に由来するリーク電流が増加したためであると考えられる。一方で、パルス間時間300秒での測定においても残留分極15 mC/cm2であり、緩和が極めて遅いプロトン種の存在も示された。これは、極性骨格とプロトンが強く相互作用していることを示している。すなわち、チャネルを形成する骨格の分極の向きに応じて、プロトンが流れやすい方向と流れにくい方向が存在する「プロトン整流」と呼べる特性により、強誘電特性が発現していることを明らかとした。この新現象に基づく高機能性を持つ物質について、強誘電イオン伝導体と名付けて報告した。また、骨格の分極反転には、シアニドの移動とともに分子間のニトリド移動が生じていると考えられる。そこで、マンガンイオンとニトリドの結合性について赤外分光により検討したところ、K2MnN(CN)4.H2Oはマンガンイオンとニトリド間の三重結合が顕著に弱まっていることが示された。すなわち、一次元集積体を形成することで、隣接するマンガンイオンと相互作用し、ニトリドが引っ張られることで、電場応答性が発現したことが分かった。
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