研究課題/領域番号 |
21K18938
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
水瀬 賢太 北里大学, 理学部, 講師 (70613157)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動画 / イオン画像観測 / 光電子イメージング / フェムト秒化学 / キラル化学 / 波束ダイナミクス / 反応動力学 |
研究実績の概要 |
本研究は、一般の多原子分子に対する、光励起ダイナミクスを実時間かつ直接的な原子空間分布測定によって追跡する手法を開発し、励起状態研究に応用をはかるものである。具体的には、時間分解クーロン爆発イメージングによって放出される複数のイオン種を別々の画像検出器で、複数の方向からとらえる新しい画像観測装置を開発し、さらに分子配向技術と組み合わせることで詳細な観測を目指す。初年度の研究では、新しい画像観測装置の開発を行った。一般的な画像観測装置では、検出器は1つもしくは2つを、光の進行方向に平行に設置する。そのような配置では、光の偏光方向のダイナミクス観測が困難である。本研究では、2つの検出器をそれぞれ垂直の関係で設置する配置を導入した。1つはレーザーの進行方向に平行であり、もう1つはレーザーの偏光面に平行となる。この2つの検出器によって、1レーザーショットで放出される複数のイオン種を、同時に検出し、分子の3次元的な構造や配向を観測した。具体的な対象として、非対称コマの例であるキラル分子、参加プロピレンの光誘起エナンチオ選択的配向ダイナミクスを取り上げた。酸化プロピレンの回転運動を一方向に制御すると、分子a軸の回転がレーザー偏光面内に制御される。しかし、レーザー進行方向に注目すると、R体とS体で異なる配向を示すとされている。そのような超高速キラルダイナミクスを直接とらえた例は極めて稀である。本研究では、酸化プロピレンのクーロン爆発イメージングによって生じた炭素原子イオンの分布を1つ目のカメラで撮像し、回転方向を精査するとともに、酸素原子イオンの分布測定によって、レーザー進行方向に対するエナンチオ選択的配向状態が現れ、それが時々刻々変化する様子をとらえた。この成果は、新たな画像観測法が確立できたことを表しており、分子ダイナミクスを大きく発展させるものといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の骨子は、マルチアングル―マルチイオンイメージング装置の開発であった。原理上、複数の検出器を適切に同期しながら測定することには困難が考えられたが、装置開発上の工夫、例えばパルス電源の最適化や電極形状の再設計によて、当初は2年間かけての開発を1年ほどで達成できた。すでに予備実験によって分子の光励起ダイナミクスについて一定の成果もえられていることから、この区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で開発した手法を本格的に様々な分子系に適用し、手法として最適化・確立・展開を行う。予備実験では、画像分解能を犠牲にして高速計測を行っていたが、そのままでは、反応や大規模構造変化に関わる、波動関数の詳細な動きはつかみがたい。信号計数率と分解能を最適化していく。その上で、配向分子線技術と組み合わせながら、光励起によって分子が構造をかえていく様を明瞭に可視化し、励起状態動力学を明らかにする手法として確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
画像観測装置の開発について、想定よりも早く測定が可能となったため、手法の原理確認を優先して予備実験を行った。実験手法の改良、最適化の段階のための費用が繰り越されるが、原理検証ができたうえで装置を改良するため、より効率的に資金を使用することができると考えられる。具体的には、画像観測装置が様々なサンプルに適用できるよう、効率よくサンプルを送り込む新規分子線部、様々なイオン種の画像が取得可能になるよう電極再設計などの費用としての使用を計画している。
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