本研究は、一般の多原子分子に対する、光励起ダイナミクスを実時間かつ直接的な原子空間分布測定によって追跡する手法を開発し、励起状態研究に応用をはかるものである。具体的には、時間分解クーロン爆発イメージングによって放出される複数のイオン種を別々の画像検出器で、複数の方向からとらえる新しい画像観測装置を開発し、さらに分子配向技術と組み合わせることで詳細な観測を目指す。2022年度の研究では、2021年度に開発した新しい画像観測装置を実際の分子系実験に適用し、手法の最適化と分子ダイナミクス観測への応用を行った。昨年に引き続き、キラル分子の代表として酸化プロピレン分子の回転波束・エナンチオ選択的配向ダイナミクスの観測を行った。非対称分子の3次元配向状態を規定するには、最低でも2方向からの撮像が必要となる。本研究で導入したマルチアングル法によって、明瞭な観測ができることが示された。昨年の時点では、酸化プロピレンから生じる酸素イオンと炭素イオンの質量電荷比が近く、十分な分離が困難であったが、高電圧用の高速FET素子を新たに導入し、イオン種ごとの画像撮像を達成した。本研究で開発した手法は、研究代表者独自のカメラアングルと高感度、高分解能を達成しつつ、他のアングルでの同時高繰り返し撮影を可能にするものであり、多様な分子ダイナミクスへの展開が期待される。開発した装置を用いて、電子励起状態やイオン状態のダイナミクス観測、分光計測を進めていく。
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