ポンプ光とプローブ光を用いる従来の時間分解分光測定を超え、これに「変化を与える」パルスを加え、3つのパルスを用いた超高速“アクション”分光を実現することが本研究の目標である。具体的には2つの実験に挑戦し、以下の結果を得た。 (1)過渡二次元電子分光:この実験では、2つのサブ10秒パルスからなるパルス対を用いて短寿命種を励起し、それによる過渡吸収の変化を励起パルス対の時間間隔を変えながら測定して過渡二次元電子スペクトルを取得する。製作した装置を用いて、最も基本的なアニオン種であり、長らく議論されているにも関わらずその実験的証拠が得られていなかった水和電子の不均一性の検出に挑戦した。その結果、光励起に伴う過渡吸収の減少(ブリーチ信号)の中心波長が、励起直後には励起波長を反映して変化するのに対し、30 fs後にはこの励起波長依存性が消失する様子が観測された。この結果は水和電子の電子吸収の不均一広がりを初めて実験的に検出したものであり、またその消失の観測により水和電子のきわめて速い構造揺らぎの時間スケールが明らかになった。 (2)5次時間領域ラマン分光:我々が世界に先がけて実現した5次時間領域ラマン分光では、時間分解インパルシブラマン分光のパルスシークエンスにおいて第一パルスにも極短パルスを用いることで、第一パルスと第二パルスの両方で分子の核波束運動を誘起し、その両者の相関として分子振動の非調和性を検出する。非同軸パラメトリック増幅器を新たに作成・付加して時間分解インパルシブラマン分光装置の拡張を行い、ミオグロビンおよびCO結合型ミオグロビンに対して実験を行った。ドーミング振動と考えられる低波数振動と高波数振動の間をはじめとして振動間の相関の存在を示唆するピークが見られる2次元スペクトルが得られた。ただしS/Nが低いため再現実験等でこれをさらに確認する必要があることがわかった。
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