研究課題/領域番号 |
21K18944
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
片山 哲夫 公益財団法人高輝度光科学研究センター, XFEL利用研究推進室, 主幹研究員 (90648073)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 核波束 / X線溶液散乱 / X線発光分光 / X線自由電子レーザー / 分子動画 / 溶媒和 / ダイナミクス / 光反応 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、X線自由電子レーザーの特性を生かして溶液中のポリピリジン銅(I)錯体分子([Cu(dmphen)2]+, dmphen = 2,9-dimethyl-1,10-phenanthroline)の光誘起擬ヤーン・テラー構造変化を原子分解能で直接観測し、ポテンシャルエネルギー面上で分子が移動しながら緩和していく軌跡を実験的にマッピングすることである。これにより、従来の紫外、赤外領域のレーザー光では不可能なフェムト秒構造化学を開拓することができる。 今年度は、昨年度計測した時間分解X線溶液散乱(TR-XSS)および時間分解X線発光分光(TR-XES)のデータ解析を行い、励起された分子の割合と錯体構造の変化を決定することに成功した。また、錯体の周囲を覆う第一配位圏の溶媒分子(アセトニトリル)の構造変化を定量的に見積もることができた。これらの解析を通して、錯体とその周囲を囲う溶媒分子がお互いに影響を及ぼし合いながらヤーン・テラー構造変化が進行するメカニズムを解明した。溶媒分子と溶質分子がお互いに影響し合いながら反応が進行すること自体は化学反応論の基礎といえるが、その一方で溶質分子内の構造変化と溶質-溶媒の分子間の構造変化(溶媒和ダイナミクス)が反応の進行過程でどのように関連しているかをサブオングストロームの空間分解能で捉える研究は世界的に見ても極めて例が少ない。これらの成果は、逆格子空間に投影された系の構造変化を直接観測するX線散乱を適用することによって初めて達成できたものであり、従来のフェムト秒化学のカッティングエッジを拡げてフェムト秒構造化学へと至るための端緒となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では光誘起擬ヤーン・テラー構造変化の直接観測を予定していた。今年度の進捗により、予定を超えて周囲の溶媒の再配置(構造変化)を定量的に決定し、光誘起擬ヤーン・テラー構造変化が進行するメカニズムを原子レベルで説明することが可能になった。溶媒和ダイナミクスとその役割の解明は、当初の研究計画では考慮していなかった望外の成果であり、本研究の派生として新たな研究テーマを生み出す可能性があるため当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ドイツの国際XFEL施設European XFELで計測したTR-XESのデータ解析を行い、X線分光から溶媒和ダイナミクスに関する情報を引き出せないか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外の研究者との共同作業によって予定していた分子動力学シミュレーションを迅速かつ安価に行えたため、次年度使用額が発生した。発生した次年度使用額は今後の研究に必要な以下の経費として利用する予定である。 - 海外XFEL施設で実験するための旅費、その他必要となる経費 - 得られた成果を発表する際のオープンアクセス化費用、旅費
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