研究実績の概要 |
令和4年度も引き続き、計算化学主導によるエチレンを用いる分子変換反応の開発に取り組んだ。令和4年度はDPPE(1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)をターゲット化合物として選択した。DPPEは、二座のリン配位子として遷移金属錯体を形成し、様々な反応を促進する優れた触媒を与える。一方、非対称DPPEは、左右のリン原子が異なる置換基を有するため、置換基の選択により電子的、立体的な影響を自在に調整可能であり、錯体の反応性を制御可能であることが期待される。しかし、非対称DPPEの合成は、一般的なDPPEの合成に比べて困難かつ煩雑であり、その報告例は極めて限られている。そこで、報告者は反応経路自動探索手法である人工力誘起反応法(AFIR法)を活用して、エチレンを出発原料とするラジカル反応によりDPPEが得られることを見出した。その後光照射下実験的に具現化することで対称、および非対称DPPE誘導体の合成に成功した。得られたDPPE誘導体を還元処理することにより、DPPE配位子を合成することが可能であり、パラジウムなどの遷移金属と錯体合成にも応用することができた。また、得られた非対称DPPEを有する遷移金属錯体は、通常のDPPE錯体とは異なる性質を示すことがわかった。本光反応は、その後[3.1.1]プロペランを用いる直線状のジホスフィン配位子の合成に展開することができた。このようにAFIR法を活用した光反応により、対称、および非対称DPPEの合成法を確立しその合成に成功した。これらの成果は、JSTより特許を出願した。
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