キラル外輪型2核ロジウム触媒は、2つのロジウム中心間の協働機能を基盤にユニークな触媒性能を示す。過去25年以上に渡り、世界中の研究者による徹底した改良と合成応用がなされ不斉合成化学における金字塔とも言えるキラル触媒群の一角を成してきた。一方、キラル2核ロジウム触媒の研究は「キラル配位子の改良」と「適用基質の拡張」に終始しており、ロジウムからの脱却やロジウムを凌駕する新しいキラル触媒の創出という“根本から潮流をひっくり返そう”という挑戦的な研究は皆無であった。本研究では、中長期的視点から合成化学のさらなる発展を見据え、成熟したキラル外輪型2核ロジウム触媒から脱却し、凌駕する新しい2核触媒の創出に挑み、以下の成果を上げることができた。(1)ルテニウム触媒から発生させたナイトレン化学種は、同じ配位子を活用したロジウム触媒と比較し、エノールシリルエーテルのアミノ化反応において、より幅広い基質一般性を示すことを明らかにした。(2)さらに分子間C-Hアミノ化反応においては、キラル空間の精密化が鍵を握ることを見出し、フタルイミド上にPh環を4枚導入し、キラル空間に合計16枚のPh環を導入することで最高99%eeのほぼ完璧な選択性を実現できることも明らかとした。この結果は、既存のロジウム触媒が90%ee以下の選択性に止まっていた点を踏まえると、劇的な選択性の向上である。(3)また、キラルアミド配位子を組み込みルテニウム触媒では、ロジウム触媒と比較し、イオン半径が小さいルテニウムならではのmer型の触媒形成が可能となることも明らかとし、高いルイス酸性を示すキラル触媒としての性能も開拓することに成功した。
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