研究課題/領域番号 |
21K18947
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
有澤 美枝子 九州大学, 農学研究院, 教授 (50302162)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 無保護ペプチドジスルフィド / 触媒的化学修飾法 / ロジウム触媒 / 挿入反応 / ペプチドポリスルフィド |
研究実績の概要 |
タンパク質やペプチドの特定の官能基を化学的に修飾して、活性や反応性等の機能を付与することは有用である。本研究では、生体高分子の三次元構造の構築のために重要なシスチンジスルフィド S-S 結合の化学修飾に着目した。特に、ジスルフィド結合間への挿入反応は、生体高分子の高次構造を大きく損なうことなく化学修飾できるため近年注目されている。しかし、従来の修飾法はシステインチオール S-H 結合と塩基から生じるチオラートの高い求核性を利用した方法であり、低極性のシスチンジスルフィド S-S 結合を直接化学修飾した例はない。 本研究では、ロジウム触媒存在下、無保護ペプチドジスルフィドと単体イオウを反応させると、S-S 結合間にイオウ原子が挿入した種々の無保護ペプチドポリスルフィド化合物を効率的に与えることを見出した。ペプチドポリスルフィド類は、シグナル伝達機能や抗酸化作用を有する超イオウ化学種として着目されているが、効率的な合成法は知られていない。本反応はペプチドポリスルフィドのグラムスケール合成に適用でき、これらの化学反応性や生物活性などの機能開発に利用できることを示した。 次いで、ペプチドジスルフィド S-S 結合間に有機官能基を挿入する反応として、ロジウム触媒存在下パーフルオロアレーンを挿入する反応を開発した。アリール基の挿入は比較的小さな架橋構造が得られるため、高次構造に影響を与えることなく、機能や安定性を付与できる特徴がある。 本研究によって、ロジウム触媒を用いて無保護ペプチドジスルフィド S-S 結合を活性化し、結合の切断交換を伴う化学修飾に加えて、有機官能基及びヘテロ原子の直接挿入による化学修飾を行えることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、ロジウム触媒を用いた無保護ペプチドジスルフィドの生成反応とジスルフィド交換やリン酸エステル化修飾などのシスチン S-S 結合切断交換による化学修飾法を見出した。この背景を基に、生体分子の高次構造を損なわずに化学修飾する方法として、本研究では、ロジウム触媒を利用してペプチド中のシスチン S-S 結合間に官能基を挿入する触媒的化学修飾法を開発できた。具体的には、無保護ペプチド S-S 結合間へのパーフルオロアレーン挿入反応、および無保護ペプチド S-S 結合間へのイオウ原子挿入反応を見出した。加えて、無保護ペプチド S-S 結合間にアリールアルシニル基やアリールホスフィニル基を挿入する反応を予備的に見出している。これらの結果は、ロジウム触媒を用いると、シスチン S-S 結合間に直接官能基を挿入可能であることを示す結果であり、当初の目的以上の成果が見出されつつある。加えて、合成した化学修飾ペプチドの機能を見出す目的で、生物系研究者との共同研究を複数開始している。本年度は、高速冷却遠心機の導入まで少々時間を要したが、導入後は本研究は計画通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
ペプチド S-S 結合間に直接ヘテロ原子官能基を挿入する反応の開発を継続して実施する。具体的には、アルシン官能基やリン官能基の挿入反応が予備的に進行することを確認しているので、詳細を検討する。 本挿入反応で得られた化学修飾ペプチドの反応性について検討する。例えば、例えば、ペプチド S-S 結合間にイオウ原子を挿入して得られたポリスルフィド化合物を利用して、ロジウム触媒による非対称ポリスルフィド合成や多様な還元型イオウ化学種 ペプチドSSnH の生成法を検討する。 本申請で開発した挿入反応をより長鎖で複雑な立体構造を有する生体高分子に適用する。ここでは、オキシトシンやバソプレッシン等のシスチン S-S 結合を1つ有する比較的短鎖の生理活性ペプチドから検討して、シスチン S-S 結合を4つ含むリゾチーム等のより長鎖で複雑な構造を有するペプチド・タンパク質に適用する段階的な方法論をとる計画である。なお、高速冷却遠心機の導入によって本研究の進捗は今後促進される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:機器故障および導入により次年度繰越申請を行った。機器導入後は、計画通りに進捗できている。 使用計画:今年度は、ペプチドジスルフィド結合間に直接ヘテロ原子官能基を挿入する反応の開発を継続して実施する。具体的には、アルシン官能基やリン官能基の挿入反応が予備的に進行することを確認しているので、詳細を検討する。そのため、研究費繰越額の大部分は、試薬や溶媒購入のための物品費として利用し、他に生成物の構造決定のための核磁気共鳴装置および質量分析装置の使用測定料(その他経費費目)として利用を予定している。
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