研究課題/領域番号 |
21K18951
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
吉沢 道人 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (70372399)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 芳香環ミセル / オリゴマー / 安定化 / 水溶化 |
研究実績の概要 |
本年度は、高い集合安定性の芳香環オリゴマーミセルの構築を行った。2つのアントラセン環パネルを有する湾曲型両親媒性分子AAは、水中で5分子から成る芳香環ミセルを形成する。しかしながら、その希釈に対する安定性は中程度(臨界ミセル濃度(CMC)=1mM)で、高温条件で容易に解離する。そこで本研究では、超高希釈と超高温で安定な芳香環ミセルの構築に挑戦した。その戦略として、AA を直線型に「連結」することで「両親媒性オリゴマー」を合成した。実際には、湾曲型両親媒性分子AA の親水基をオリゴエチレングリコール鎖で連結した。連結鎖はパネルの集合を阻害しないため、目的の芳香環オリゴマーミセルの構築が期待できる。まず、湾曲型両親媒性分子の3量体 AT の合成と水中での集合体を達成した。次に、集合体の詳細な構造(DLS, AFM解析など)と集合安定性(NMR, UV-vis, 蛍光, ITC解析など)を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
湾曲型両親媒性分子の3量体ATの合成はAAの前駆体を出発原料とし、4段階の反応により合成した。ATの重水中での1H NMRシグナルは、ミセル形成に伴い、重メタノール中と比較して大きくブロード化した。DLSおよびAFM測定から、約2 nmの球状集合体 オリゴマー芳香環ミセル(AT)n の形成が判明した。濃度可変の発光スペクトルから希釈に対する安定性を調べたところ、(AT)nの臨界ミセル濃度(CMC)は0.003 mM以下であり、従来の芳香環ミセル(AA)nの臨界ミセル濃度と比較して300倍以上も低く、低濃度でも安定にミセル構造を形成できることが判明した。また、(AT)nは有機溶媒に対しても高い安定性を示し、メタノールと水の混合溶液において、メタノールの量が約60% (v/v)までミセル構造を維持した。さらに、加熱に対する(AT)nの安定性を温度可変1H NMRから評価した。130℃での1H NMRのシグナルは室温と同じく大きくブロード化しており、高温下でもミセルを維持できていることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
湾曲型両親媒性分子AA はグラインディング法により、水中で様々な疎水性分子を捕捉により水溶化できる。本研究で合成に成功した両親媒性オリゴマーは高い集合能を有することから、同法で、微量の3量体 AA3 で多量の疎水性分子の水溶化が期待できる。そこで次年度は、 AA3 を活用し、難溶性の機能性材料のオリゴチオフェン、オリゴフェニレンビニレン、グラフェンナノシートなどを捕捉により可溶化する。また、得られた構造体の未開拓な溶液物性を解明する。可溶化により、内包物への高効率・高選択的な官能基導入による新材料創製にも挑戦する。さらに、高い安定性と捕捉能に、優れた刺激応答能を加えた芳香環オリゴマーミセルを開発する。特に「光応答性」を目指して、両親媒性オリゴマーに光反応性部位を導入する。これにより捕捉分子の高安定化と定量的な放出システムを達成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究活動が制限されたため、本年度に予定していた物品・装置の購入や学会参加費・旅費、人件費は次年度に繰越した。次年度では、研究活動を加速すると共に、本年度に予定した物品・装置の購入および人件費の執行を行う。研究は順調に進展しており、次年度から新たな研究メンバー(准教授・助教・学生・留学生)が加わることから、大きな研究の進展が期待できる。
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