研究実績の概要 |
分子単結晶は、分子が最も規則的に配列した分子集合体であり、分子の規則的配列と異方的集合構造に由来した優れた物性の発現が期待できる。本研究では、多様な有機構成分子から1次元チャネル状空孔を有する堅牢な多孔性単結晶を構築し、次いで触媒活性部位を導入することにより「単結晶触媒」へと展開することを目標としている。本年度は、ヘキサアザトリフェニレン以外のπ共役系分を用いて、一連の同型多孔質結晶を得ること検討した。具体的には、非平面π共役分子ジベンゾクリセンが結晶中で「かみ合い積層」によって1次元状の強固な積層構造を与えることに着目し、ジベンゾクリセン骨格に置換位置の異なるカルボキシナフチル基を導入した分子群を用いて結晶化を行った。その結果、いずれの分子からも分子が「かみ合い積層」と分子間水素結合によって高度にネットワーク化した多孔質同型結晶を得ることに成功した。興味深いことに、これらの結晶は同型ネットワーク構造をもつにもかかわらず、空間活性化の際にはそれぞれ異なる挙動を示すことが分かった。1,5-置換体の結晶は、空間活性化の前後でフレームワークは変化せず、ガス吸着実験から見積もった比表面積は1gあたり1300平方メートルであった。2,6-置換体は、活性化によってそのフレームワークは崩壊した。1,4-置換体はこれら2種類の結晶の中間の性質を示した。すなわち、溶媒分子の脱離と挿入の過程において可逆的にフレームワークが伸縮する柔軟な多孔質結晶であることが分かった。
|