感染症は人類にとって大きな脅威である。真菌はヒトと同じ真核生物であるため,優れた選択毒性を発揮できる薬物が少なく,抗真菌薬の開発は立ち遅れている。さらに,耐性菌の出現は社会問題となっており,より効果的な抗真菌剤の開発が求められている。アンフィジノール3(AM3)は,強い抗真菌活性を示す天然物である。細胞膜に直接作用して抗真菌活性を発現することが示唆されており,耐性菌が出現しにくい抗真菌薬のリード化合物として期待される。しかし,天然からの供給は難しく,また,副作用として溶血活性を持つことが問題である。そこで本研究では,AM3アナログ分子をリード化合物とした合成化学的アプローチから,耐性菌が出現しにくく選択毒性の高い抗真菌剤の開発を目的として研究を行った。令和3年度から4年度は,人工アナログ分子の設計・合成・生物活性評価を行った。ポリオール部分とビスTHP環部を鈴木-宮浦カップリング反応によって連結した共通中間体から,ポリエン部分に関する様々な類縁体をJulia-Kocienskiオレフィン化反応を利用して収束的に合成し生物活性を評価した。令和5年度は,AM3が膜中で形成する分子複合体の構造と抗真菌活性発現機構に関する考察を行った。1)ビスTHP環部の立体化学は抗真菌活性発現において厳密に認識されており,1か所だけでも絶対配置が天然物と逆になると抗真菌活性を示さなくなる。2)ポリオール部分はC1-C20まで削減可能であるが,それよりも1炭素短くなっただけで抗真菌活性を示さなくなる。3)短縮体アナログの場合,ポリエン末端の構造が僅かに変化しただけでも抗真菌活性を示さなくなる。以上の結果から,ステロール分子とともに分子複合体を生成することで細孔を形成するトロイダルモデルが有力であると推定した。
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