研究課題/領域番号 |
21K18965
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
濱島 義隆 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (40333900)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 光反応 / ケトン増感剤 / 不斉合成 / イオン対 / 水素結合 / 環化付加反応 / C-H活性化 / 位置選択性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、会合型多機能性触媒を創製し、これまで選択性制御が困難とされてきた光化学反応の不斉触媒化を実現することである。具体的には、アニオン受容体を有するキラルアミンと強酸を有する光増感ケトン触媒とからなるイオン対会合型触媒により不斉光反応を進展させる。 まず、十分な三重項エネルギーと比較的長い励起寿命を有するチオキサントンをスルホン酸で修飾したケトン光触媒とシンコナアルカロイド由来のキラルアミンを合成し、イオン対を形成させた。NMR測定により会合体は均一であることが確認され、機能性モジュールをそれぞれ組み合わせることにより多様な会合型触媒のライブラリーを構築可能であることが示された。 次に、キラルアミン側のアニオン受容体としてスルホン酸との水素結合が報告されているスクワラミドを選択し、その光特性を調査した。その結果、スクワラミド自身が光励起され自発的に分解することが判明した。一方で、ウレア類は同条件では励起されず分解しなかった。そこで、アニオン受容体をウレア類に変更したシンコナアルカロイドユニットを合成した。これらとスルホン酸ユニットを有するケトン光触媒から調製されるイオン対触媒の400 nm付近の光に対する安定性を調査したところ、安定であることを確認できた。そこで合成したイオン対触媒を用いて、エネルギー移動による三重項励起を鍵とする光環化付加反応をいくつか実施した。その中で反応が円滑に進行するものがあったが、これまでのところ高いエナンチオ選択性を観測することはできていない。これはイオン対形成によりアンモニウムプロトン周辺がかさ高くなり、基質が触媒と水素結合を形成しにくかったためと考えている。しかしながら、イオン対触媒の添加により反応が促進されること、ならびに微弱ながら不斉誘導が観察されたことから、触媒設計の妥当性を確認することができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、「アニオン受容体を有するキラルアミンと、光増感作用を有する強酸とからなるイオン対会合型触媒を調製すること」を最初の課題とした。「研究業績の概要」欄に記載した通り、キラルアミンとして入手容易なシンコナアルカロイドを選択し、またアニオン受容体としてスクワラミドを採用し、アミンパーツを合成した。さらに、スクワラミド以外のアニオン受容体として多くの知見があるウレアやチオウレアも採用した。一方、ケトン光増感触媒についても当初の計画に従って三重項エネルギーと励起寿命の観点からチオキサントンを選択し、キラルアミンとの中和反応に必要なスルホン酸で修飾した。合成した酸と塩基のパーツを混合し、イオン対会合型光触媒が均質に形成されることを確認できたことから、イオン結合と水素結合により構造的に安定な反応場が構築されるとする仮説通りに研究が進んだ。 次に、会合型触媒の機能評価のためアルケン類の[2+2]環化反応の不斉制御を検討した。酸・塩基反応により形成された会合型触媒のアンモニウム塩は水素結合により基質を増感剤の近傍に配置するとともに、基質の三重項エネルギーレベルを低下させると期待した。計画に従って、シクロヘキセノンとアルケンとの反応を検討した。反応促進に触媒が必要なことは確認できたが、高いエナンチオ選択性を観測するには至っていない。 本年度はキラルアミンを種々合成し、光増感剤を組み合わせた会合型触媒ライブラリーを構築できることが原理的に可能であることを示せたが、選択性改善に向けたイオン対会合型触媒のスクリーニングまでは行えていない。一方で、微弱ながら不斉誘導が可能であるという知見も得られたため、本研究計画の妥当性は確認できた。以上のことより、研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度はシンコナアルカロイドを母核とするキラルアミンの合成に注力したが、ケトン光増感剤については1種類しか検討できなかった。イオン対会合型触媒を均質に形成可能なことを確認できたのは大きな成果であったが、不斉制御に関しては大幅な改善が求められる。エナンチオ選択性の改善に向けて会合型触媒ライブラリーを構築しスクルーニングすることを計画しているが、触媒ライブラリーを構築するに至っていない。そこで次の研究方針として、キラルアミンパーツならびに酸性光増感剤パーツのラインナップを充実させる。 キラルアミンユニットがシンコナアルカロイド触媒の場合、モデル反応であるアルケン類の[2+2]環化反応は進行するものの、不斉制御は微弱であった。これは、ケトン増感剤がアニオン受容体により捕捉された結果、基質との相互作用を期待しているアンモニウムイオン部位が立体的に混雑していて接近できないため、キラル空間の外側で反応の一部が進行するためと考えられる。そこで基質のアクセスビリティーを高める空間的余裕を持たせるべく、他のキラルアミン骨格を検討する。具体的にはビナフチルジアミン(BINAM)やシクロヘキサンジアミンを母核とするキラルアミンユニットを新たに設計・合成する。さらに、初年度はスルホン酸のみであったケトン増感剤の酸性官能基については、スルホ基に加えてリン酸エステル基やカルボキシ基にも拡張し、それらの置換位置の異性体とともに評価する。会合体の構造をある程度安定化するしくみについては研究を実施する中で変更する必要があると考えていたが、初年度の結果から酸・塩基反応によるイオン対形成とアニオン受容体が有効であると判明したため、この方針を継続する。以上のような研究を実施することで、2年度は会合型触媒ライブラリーの充実が図られるため、モデル反応のエナンチオ選択性を改善できると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に雇用する予定であった研究補助員が雇用できなかったため次年度使用額が発生した。2年目からは研究補助員を採用できることになったため、人件費・謝金を使用する予定である。また、実験装置の更新が必要となりその購入費として物品費を繰り越し、2年目に購入する。多くの学会がオンライン形式となったため出張旅費を使用しなかった。今年度も出張旅費が縮小されると予想されるため、必要額以外は本研究を推進するに必要な備品の購入に充てる予定である。
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