本研究の目的は、会合型触媒を創製し、これまで困難とされてきた光反応の不斉触媒化を実現することである。具体的には、アニオン受容体を有するキラルアミンと強酸を有する光増感ケトンからなるイオン対会合型触媒による不斉光反応を研究する。 本研究では、比較的長い励起寿命を有するチオキサントンまたはキサントンをスルホン酸等で修飾したケトン光触媒を、塩基部位を有するキラル母体分子とイオン対により会合させることで会合型触媒を構築した。母体分子としては、シンコナアルカロイドの9位アミン体のアミノ基を水素結合ドナーとして(チオ)ウレアに変換した三級アミン、ビナフトールジアミンの一方のアミノ基に(チオ)ウレアを結合させた一級アミン、及びビナフトールジアミンの片方のアミノ基に(チオ)ウレアを、他方のアミノ基にはピリジル基を結合させた2位アミノピリジンを塩基として用いた。また、キラル母体分子としてキラルシクロヘキサンジアミンを用いる設計も行った。中和反応で生成したスルホナートイオンは触媒内のウレアと水素結合することがNMR測定により示唆された。会合体は室温において均一であることが確認され、計画通り、機能性モジュールをそれぞれ組み合わせることにより多様な会合型触媒のライブラリーを構築可能であることを確認できた。 上記の会合型触媒の機能評価は、アルケン類の不斉[2+2]環化反応で行った。検討の結果、2位アミノピリジンを塩基としてもつ母体分子とチオキサントンスルホン酸から形成されるイオン対会合触媒が、中程度のエナンチオ選択性(40% ee)を与えた。発展途上の選択性ではあるが、本研究における最高値を観察した。反応促進に触媒が必要なことも確認できたため、分子会合により不斉合成にふさわしい反応空間を構築できることが確認できた。今後は、合成反応としても価値のある触媒系に改良する。
|