研究課題/領域番号 |
21K18969
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
北川 裕一 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (90740093)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | 蓄光体 / トリボルミネッセンス / 希土類錯体 / メカノケミストリー / 多環芳香族化合物 / ガドリニウム / ルテチウム |
研究実績の概要 |
トリボルミネッセンスとは機械的刺激により結晶が発光する現象である。本現象が発見されたのは約400年前であり、これまでに様々なトリボルミネッセンスを示す有機化合物・無機化合物が報告されてきた。本現象は高エネルギー励起源を用いず力学的刺激で発光エネルギーを獲得することができるため材料化学の観点から注目を集めている。申請者は希土類錯体を用いた強いトリボルミネッセンスの発現に成功している。本研究では力学的刺激により蓄光を示す錯体の創成を目的とした。本年度はそのために光励起で蓄光特性を示す希土類錯体の創成を検討した。 (i)フェナントレン骨格を導入した二核希土類錯体の合成:フェナントレン骨格を導入した二座ホスフィンオキシド配位子を2,7-ジブロモフェナントレン原料から、二段階反応で合成した。得られた配位子と2 2 6 6-テトラメチル-3 5-ヘプタンジオナートが配位したルテチウム錯体と錯形成反応を行った。単結晶を得ることに成功し、単結晶X線構造解析を行ったところ七配位の錯体が連結した二核構造を形成していることが分かった。このルテチウム錯体は室温条件において紫外光励起により黄色の蓄光を示すことが明らかとなった。 (ii)ビフェニル骨格を導入した二核希土類錯体の合成:ビフェニル骨格を導入した二座ホスフィンオキシド配位子を4,4'-ジブロモビフェニル原料から、二段階反応で合成した。得られた配位子と2 2 6 6-テトラメチル-3 5-ヘプタンジオナートが配位したルテチウム錯体と錯形成反応を行った。単結晶を得ることに成功し、単結晶X線構造解析を行ったところ七配位の錯体が連結した二核構造を形成していることが分かった。このルテチウム錯体は低温条件において紫外光励起により緑色の蓄光を示すことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では力学的刺激により蓄光を示す錯体の創成を目的としている。そのために光励起で蓄光特性を示す希土類錯体を合成することが最初のステップとなる。初年度はフェナントレン骨格とビフェニル骨格を導入した希土類二核錯体をそれぞれ合成した。ここではアニオン配位子として2 2 6 6-テトラメチル-3 5-ヘプタンジオナートを用いている。これらは単結晶X線構造解析により、多環芳香族化合物をアニオン配位子が包摂した構造を形成していることが分かった。そフェナントレン骨格を導入した希土類錯体は室温で黄色の蓄光特性を示し、ビフェニル骨格を導入した希土類錯体は低温で緑色の蓄光特性を示した。そのため、おおむね順調に進展しているといえると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度では、紫外光励起により室温で黄色蓄光を示すフェナントレン希土類錯体、低温で緑色蓄光をビフェニル希土類錯体の創成に成功している。2022年度は以下のことを検討する。 (1)2021年度合成した希土類錯体の力学的な刺激により生じる発光特性を検討する。また、希土類イオンを変えたとき(ルテチウム→ガドリニウム)の力学的な刺激により生じる発光挙動の変化も併せて検討する。 (2)他の多環芳香族化合物(ex. ピレン)を導入したホスフィンオキシド配位子を用いた希土類二核錯体の合成を行う。得られた化合物を質量分析、元素分析、X線構造解析を行う。また、詳細な光物性評価(吸収スペクトル、発光スペクトル、発光量子収率、時間分解発光測定)および力学刺激による発光特性についても併せて評価する。 (3)蓄光性ルテチウム錯体と4f-4f発光性希土類錯体(テルビウム、ユウロピウム等)の混合結晶を創成する。得られた化合物を質量分析、元素分析、X線構造解析およびICP分析を行う。蓄光性ルテチウムの最低励起三重項状態間の遅いエネルギー移動を利用することで4f-4f遷移に基づく遅延発光特性を創出する。光物性は吸収スペクトル、発光スペクトル、発光量子収率、時間分解発光測定で評価する。紫外光励起により遅延発光を確認したら、力学的な刺激により遅延発光が生じるか検討する。
|