研究課題/領域番号 |
21K18970
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
土方 優 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (70622562)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 自己集積 / 理論計算 / 多孔性配位高分子 |
研究実績の概要 |
本研究課題では金属イオンと有機配位子から構築される配位高分子の複雑な自己集積過程を理論的網羅探索によって解明することを目的とし、本年度は1. 亜鉛イオン、ケイ素フッ化物アニオン、窒素系有機配位子からなる配位高分子の共通要素であるビルディングユニットの自己集積過程の解明、および2. 二価金属イオン、カルボキシレート配位子、窒素系有機配位子からなる金属二核錯体のビルディングユニットの集積過程の解明とその金属依存性を明らかにすることを目的に研究を進めた。 1については、錯体の平衡過程(有機配位子が金属に配位したり離れたり)を繰り返している中間状態を経て、骨格形成へとつながるエネルギー障壁を超え、期待される骨格構造の形成が進んでいることを明らかにすることに成功した。この過程は、これまで多孔性配位高分子合成の実験分野で言われてきた直感的理解を理論的に示したと言える結果である。今回対象とした骨格は室温で容易に合成されており、計算結果においてもほとんどの反応過程においてわずかなエネルギー障壁しかなく、容易に反応が進行することが確認できた。この成果は、理論計算による集積過程の網羅的探索による反応過程を明らかにした初めての論文として報告することができた。 2については、前年度に問題となっていた脱プロトン過程について、入力構造から脱プロトン化した構造を用いることで解決し、対象として亜鉛イオンと銅イオンによるビルディングユニットの形成過程の解明に取り組んだ。銅イオンでは安定である中間体構造が亜鉛イオンでは不安定な構造で崩れてしまう計算結果が得られ、同じビルディングユニットであっても形成過程が異なる可能性があること明らかにした。来年度は本計算を進め、各々の形成過程を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験分野で直感的に捉えてられていた自己集積過程を理論計算によって明らかにすることができ、その直感に沿う過程によって金属と配位子が平衡過程を経て集積していることを明らかにし、論文として発表することができた。また、現在、金属二核錯体からなるビルディングユニットに関する計算を進めている。この構造は多くの多孔性配位高分子の結晶構造に見られるビルディングユニットであり、その集積過程の違いが明らかになりつつあり論文化への目処が立ってきた段階であり、実験研究に与えるインパクトが大きいものと考えられる。実際の実験では同じ骨格構造においても金属が異なれば金属イオンと配位子の混合手順を変える必要があり、理論計算ではそれらの必要性に関する結果も得られており、当初予定していた集積過程を追う以上の結果をすでに得ている。
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今後の研究の推進方策 |
金属二核錯体のビルディングユニットの集積過程の解明に注力する。特に、現在得られている金属種による集積過程の違いは、実験研究では直感的かつ探索的に条件検討を行っているのが現状であるが、本研究による集積過程の解明および理解を行うことで、直感的な実験から設計指針にもとづく合成が可能となるため、集積過程の他の可能性を確認しながら計算を進める。このため計算機器環境を増設し、解析を進めつつ探索を進められるよう新たな計算機を購入する。また、集積過程に関しては目処が立っているため、骨格の安定性という視点から重要である、分解過程に関しても検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
配位高分子の集積過程における平衡過程までを計算によって明確に得ることができたのは予想外の結果であったため解析に注力する必要があったため計算機の追加購入を見送った。次年度は集積過程の探索は目処が立っており解析と同時に他の過程を可能性を確認する必要もあるため計算機環境を増強する。
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