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2021 年度 実施状況報告書

金属錯体のδ-π共役を利用した多孔性二次元電子系物質の創製

研究課題

研究課題/領域番号 21K18971
研究機関名古屋大学

研究代表者

井口 弘章  名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30709100)

研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2023-03-31
キーワードδ-π共役 / 金属錯体 / 多孔性 / 分子性導体 / 二次元電子系 / 有機ラジカル
研究実績の概要

本研究では、ランタン型二核金属錯体に大きなπ共役平面を有する配位子を導入することで、δ-π共役系が分子全体に広がった非平面型金属錯体を合成し、ラジカルを含むπ-π相互作用による二次元集積化により、ナノ細孔と高い結晶性を併せ持つ二次元電子系多孔性分子導体(2D-PMC)の開発を目指している。
本年度は、大きなπ共役平面を有するランタン型錯体がどのような集積構造を形成しうるのかを広く調査するため、δ-π共役は期待されないものの、安価かつ温和な条件で合成が可能な銅(II)イオンを原料として、ランタン型銅二核錯体を複数合成した。得られた1-ピレンカルボン酸または2-ピレンカルボン酸を配位子に有するランタン型錯体の単結晶X線構造解析を行い、テトラヒドロフラン(THF)を貧溶媒として合成した1-ピレンカルボン酸を含むランタン型錯体は、歪んだ四角格子状の二次元集積骨格を形成し、空孔にTHF分子が含まれていることを明らかにした。これ以外の条件で合成したランタン型錯体は、一部のπ共役有機配位子のみがπ積層相互作用した一次元集積骨格となるものが多く得られた。
以上のことから、πラジカルを含まない配位子でも条件次第では二次元集積骨格が得られることが明らかとなり、結晶合成後にナノ細孔への酸化還元活性分子の導入を行うことでも、2D-PMCが合成できる可能性が示された。また、今後より強いラジカルを含むπ積層相互作用を利用することで、様々なランタン型二核錯体を基盤とした2D-PMCの合成が可能になると期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、温和な条件で合成が可能で安価な銅(II)イオンを原料として、大きなπ共役平面を有するランタン型錯体を複数合成し、ラジカル化していない中性の状態でどのような集積構造を形成しうるのかを調査した。架橋配位子としては市販されている1-ピレンカルボン酸(1-PyrCOOH)に加えて、新たに2-ピレンカルボン酸(2-PyrCOOH)をピレンを原料として4ステップの有機反応により合成し、用いた。室温で酢酸銅と架橋配位子が共存した溶液に対して貧溶媒を拡散することで、ランタン型錯体の単結晶を合成し、X線構造解析を行った。多くの場合、π積層相互作用は4つの架橋配位子のうち一部のみでしか見られず、一次元集積骨格となるものが多かったが、テトラヒドロフラン(THF)を貧溶媒として合成した[Cu(1-PyrCOO)4(thf)]・THFは、全ての架橋配位子のピレン部位が隣の分子とπ積層相互作用を形成し、歪んだ四角格子状の二次元集積骨格を形成した。空孔に含まれているTHF分子をそのまま加熱して脱離させるとアモルファス化することから、非常に弱い多孔性骨格であることが示唆された。合成条件によっては酢酸銅の4つのアセテート配位子のうち半分だけが置換されたランタン型錯体も得られており、合成条件の更なる検討が必要である。DMF分子が軸位に配位した錯体は、DMF中では緑色に呈色するが、クロロホルムに溶かすと黄色となるため、ソルバトクロミズムが発現していると考えられる。

今後の研究の推進方策

本研究は以下の3つのステップからなっており、今後は②、③の実験へと段階的に進める予定である。また、そこで得られた知見を逐次①に還元し、より最適な分子設計を行う。
【ステップ①】広いπ共役平面とδ-π共役を有するランタン型二核金属錯体の合成:より構造が堅牢で、磁性や触媒特性の発現が期待できるRu及びRhを含むランタン型錯体の合成に取り組む。
【ステップ②】二核金属錯体の自己集積による2D-PMCの合成:今年度合成したCu二核錯体については配位子を酸化して集積化させることで、δ-π共役のない2D-PMCの合成を行い、その物性を評価する。①で合成するRu、Rhランタン型二核錯体については、配位子を酸化した場合としない場合の両方で集積化を試み、構造を比較する。この酸化還元は、定電流電解または酸化剤を用いた化学的手法により行う。
【ステップ③】分子吸脱着による2D-PMCのバンドフィリング制御 :②で合成した2D-PMC結晶をTTFやTCNQなどの酸化還元活性な分子の溶液に浸漬してこれらをナノ細孔中に取り込み、金属錯体との間で電荷移動を起こす。この電荷移動量がドーピング量になるため、取り込む分子の濃度や浸漬時間を変えることでバンドフィリングの連続的制御を実現する。また、取り込んだ分子を抽出して取り除くことも可能と考えられ、無機結晶では困難な可逆的バンドフィリング制御についても実証する。一方、電気化学的にイオンを挿入することも可能と考えられ、共同研究などにより、電気化学ドーピングについても検討し、物性評価を行う。

次年度使用額が生じた理由

年度途中で東北大学から名古屋大学への異動が決まり、異動後(次年度)に実験環境を整えるための費用が必要となったため、購入計画を変更し、初年度の支出を低減した。また、コロナウイルス感染症拡大のため、計画していた討論会への出張が無くなったため、旅費は全く使用しなかった。人件費についても、博士の学位を取得した中国人留学生を雇用する予定だったが、予定より早く帰国したため、それ以降は使用しなかった。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] An electrically conductive metallocycle: densely packed molecular hexagons with π-stacked radicals2022

    • 著者名/発表者名
      Cui Mengxing、Murase Ryuichi、Shen Yongbing、Sato Tetsu、Koyama Shohei、Uchida Kaiji、Tanabe Tappei、Takaishi Shinya、Yamashita Masahiro、Iguchi Hiroaki
    • 雑誌名

      Chemical Science

      巻: 13 ページ: 4902~4908

    • DOI

      10.1039/d2sc00447j

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Syntheses and Physical Properties of Robust Porous Molecular Conductors with 1,2,4-Triazole Group2022

    • 著者名/発表者名
      Hiroaki Iguchi, Mengxing Cui, Yongbing Shen, Shohei Koyama, Shinya Takaishi
    • 学会等名
      日本化学会第102春季年会
  • [学会発表] 多孔性分子導体の開発:現況と問題点2021

    • 著者名/発表者名
      井口弘章
    • 学会等名
      2021年度物性研究所短期研究会・分子性固体研究の拡がり:新物質と新現象
    • 招待講演

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公開日: 2022-12-28  

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