研究課題/領域番号 |
21K18974
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平岡 秀一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10322538)
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研究分担者 |
高橋 聡 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20456180)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 分子自己集合 / 速度論支配 / 環状自己集合体 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
2021年度は、速度論支配における配位分子自己集合の原理解明を目指し、数理モデルの構築およびその実験的実証に取り組んだ。数理モデルの構築については、最もシンプルかつ多様な自己集合体のモデルとしても十分に機能するM4L4四角形を選択した。これについて系中で起こりうるすべての反応を考慮した反応ネットワークモデルの構築を達成し、これを使い自己集合の数値シミュレーションを実施した。研究構想段階における思考実験で、分子自己集合の構成要素の加え方を変化させることで、経路選択が可能になり、熱力学支配における結果と異なる帰結を導き得ることを考えており、これを検証した。その結果、思考実験で考えていた経路選択と効率的な自己集合が起こることを数理モデルによる実証できた。さらに、これをPd2L4かご形自己集合について実験的に確認したところ、本質的に数理モデルと同じ結果が得られた。また、Pd2L4かご形自己集合の収率を通常条件と比べると、本条件の方が明らかに高く、さらにこの状態で加熱し熱力学平衡状態へ変化させると、収率の低下が観測された。これらの結果から、反応は速度論支配で起こり、経路選択によってボルツマン分布を超えて集合体を形成できたことが明らかとなった。このように、速度論支配における分子自己集合の経路選択の一般性に関する1つの原理を導き出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分子自己集合のモデル系としてM4L4四角形を最安定集合体、M3L3三角形およびM5L5五角形を速度論トラップとなるような自己集合系について、反応ネットワークの構築を行なった。自己集合過程で長いオリゴマーが一過的に生成することを想定し、金属イオン(M)が最大10個含む中間体まで考慮し、これらの種の間で起こりうるすべての反応を考慮したネットワークモデルを構築することに成功した。続いて、金属イオン上における配位子交換が付加機構で進行するPd(II)イオンなどを想定し、反応系中に過剰の多座配位子が存在する場合とその逆について、反応途中で生成する中間体の分布とその反応性の性質が変わることで、自己集合の帰結をコントロールできるのかを確認した。その結果、過剰の多座配位子が存在する中へ金属イオンが入っていく場合、3種類の鎖状中間体のうち1種類が選択的に形成し、さらにこれらの間の分子間反応を経て熱力学的に最安定なM4L4四角形が経路依存によって効率的に生成することを突き止めた。この知見は、可逆な可逆結合であっても、分子自己集合全体の反応ネットワークでは完全な可逆系とならず、部分的な可逆系が作られることで反応は速度論に従うことを示している。また、実験的にこの現象を確認するために、Pd2L4かご形錯体の自己集合について検証したところ、数理モデルと極めた似た結果が得られ、通常条件に比べて優位に収率が向上すること、また、n-k解析によって、反応系中の中間体の分布を調べると、数理モデルで予想された1つのタイプの中間体が選択的に生成していることも実証された。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、数理モデルにとって経路選択の一般原理を導くことに成功し、これを実験的にも確認することができた。2022年度は、数理モデルを使って、反応条件や多座配位子の性質(例えば、多座配位子の配位部位間の協同性)や脱離配位子の配位力、反応濃度などが本原理に及ぼす効果を明らかにする。併せて、実験的には、Pd2L4形のみならず、より多くの構成成分からなる自己集合系についても成り立つのかを明らかにし、一般原理の適応範囲などに関する詳細を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、数理モデルシミュレーションを行うための反応ネットワークの構築をはじめとする理論研究に集中し、翌年度に理論研究の成果を基に実験研究に集中する方が研究の効率が上がると判断した。そのため、2021年度の実験経費を翌年度に回し、2022年度は実験研究のウェイトを多くすることとした。その結果、2021年度は本研究のアイデアを数理モデルによって実証すことができただけでなく、実験的に実証すべき事柄を明確にすることができた。そこで、2022年度は計画通り実験研究に重心を移し研究を行うことなった。
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