研究課題
本研究では、インターロック分子の一つであるロタキサンを結晶中に精密に配列し、ロタキサンの輪分子のナノメートルスケールの回転運動を電場などの外部刺激に応答させて制御することで、新規な強誘電体材料の創製を目指す。これまでの研究で、カルボン酸を末端に含むジフェニルビオロゲン誘導体がクラウンエーテル誘導体と協同的な錯形成により[3]擬ロタキサンを形成することを見出している。そこで、この[3]擬ロタキサンを新たな架橋配位子として用い、末端のカルボン酸部位を金属イオンとの錯形成により多孔性配位高分子を構築することで、ロタキサンをフレームワーク結晶内に精緻に配列することができると考えた。特に、その架橋配位子の長さや、輪分子の密度に応じた動的特性の制御が可能になると期待した。本年度はまずはこの多孔性配位高分子を形成するにあたり、どのような溶媒系において[3]擬ロタキサンが保持できるのかについて詳細に調べた。その結果、クロロホルムなどの低極性溶媒のみならず、アセトニトリルやメタノールなどの高極性溶媒中においても十分に強い会合を示すことを見出した。現在、メタノール中において、ピラードレーヤー型の多孔性配位高分子の構築を検討している。さらに、フレームワーク結晶に導入する新規な動的ロタキサンモチーフの構築も行った。フェニレンジアミン部位を含む屈曲型配位子とPd(II)イオンからなる錯体が、様々なクラウンエーテル誘導体と多点水素結合を介して相互作用し、ロタキサンを形成することを見出した。24員環から30員環のクラウンエーテルからロタキサンが形成することが明らかとなり、フェニレン部位の数に応じて会合定数が大きく異なることも見出した。様々なクラウンエーテルからロタキサンが形成できるため、今後、ローターの回転運動の活性化エネルギーを制御したり、誘電応答を示す極性部位を導入することが可能と期待される。
2: おおむね順調に進展している
フレームワーク結晶に導入予定のジフェニルビオロゲン骨格を軸分子として有する擬ロタキサン構造を構築し、これが多孔性配位高分子を形成可能な高極性溶媒条件でも保持できることを見出したため。また、フレームワーク結晶に導入するビルディングブロックとなる新たな動的ロタキサン構造の構築にも成功したため。
研究初年度において、ジフェニルビオロゲン骨格を含む擬ロタキサンが高極性溶媒中においても会合を保持できることを見出したため、これをビルディングブロックとする、多孔性配位高分子の構築を引き続き検討する。また、新たに構築したPd(II)イオンを含む動的ロタキサンをビルディングブロックとしたフレームワーク結晶の構築も行う。
2021年度に、フレームワーク結晶の構築を行い、その結果について共同研究ならびに学会発表を行う予定であったが、当初予定したようなロタキサン構造を含むフレームワーク結晶はまだ得られておらず、新たなロタキサンビルディングブロックの構築の研究を展開したため、未使用額が生じた。このため、ロタキサン構造を含むフレームワーク結晶の構築の検討と学会発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
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