研究課題/領域番号 |
21K18980
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木村 敦臣 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (70303972)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 超偏極キセノンNMR / 超偏極キセノン生成装置の改良 / 高分子自由体積 |
研究実績の概要 |
医療用のMRI(磁気共鳴画像法)や化学分析用のNMR(核磁気共鳴分光法)の基本となるMR(磁気共鳴)の研究は誕生以来75年を経過したが、今や健康で科学的に進んだ国民生活の基盤を支えるまでに発展した。この分野では、現在でも基礎技術の発展が探求されさらなる発展の途上にあると言える。その1つが超偏極技術の展開である。これは、誕生以来の課題であったMRの感度の低さを飛躍的に向上させるものである。本研究では超偏極技術の1つである超偏極キセノン法を取り上げる。この方法はキセノン(Xe)ガスのMR感度を増強することにより、キセノンMRI(NMR)を実用的な水準に持ち上げる技術である。 著者らは独自の研究により、MR感度を数万倍にまで増強できる「連続フロー型超偏極キセノン生成装置」の開発に成功し、医療用としてマウスを使った病態診断法の研究や、化学分析用としてゼオライト等の多孔質微粒子を用いたナノ素材解析法の研究に応用してきた。その中で、当該法の有用性を確認すると共に、本法の利用分野がもっと大きな広がりを見せるはずとの考えから、本研究において新規応用分野の開拓に取り組むこととした。本研究の目的は、具体的には、超偏極キセノン生成装置の長時間使用に伴う性能劣化を徹底的に防止し「装置の頑強化」を計り、Xeガス消費量を劇的に削減し資源節約による「持続可能化」を完成させ、次に、この装置の特徴を生かして化学分析・素材解析における画期的な新展開の途を拓き、汎用化と普及の基盤を構築することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、超偏極希ガス生成装置の改良として、心臓部である偏極セルの窓の汚染防止策に取り組んだ。セル窓に金属Rb(ルビジウム)の蒸気が付着して曇りを生じることを避ける対策を行った。結果として、窓の曇りは従来の1/5以下に遅くすることに成功した。これに対し、セル減衰定数で判断した性能劣化の速度は1/2程度の改良のみであり、窓の曇り以外にも性能改良の余地のあることが分かった。Rb蒸気が偏極セルから漏出して配管内壁に沈着しキセノンガスの緩和を促進する可能性が考えられるので、信号強度に対するキセノンガス流量の影響を調べた。現有のローラーポンプで供給できる300mL/分の流速まで信号の増加が観察され、我々の既報文献(Sci.Rep.2017;7:7352)と照らし合わせて、配管内での緩和の影響が無視できないことが示唆された。今後の対策は下記の今後の推進方策参照。 高分子自由体積の定量的評価法の開発では、高分子内の自由体積である微小空間を占めるXeの定量が主目的であるが、このようなXeは自由体積を形成する周囲の高分子本体に溶解したXeと速い交換状態にあるため、前者を分離観測することは困難である。後者の溶解Xeの評価法であるDual Mode Sorption Modelを利用し、129XeのNMR信号の圧力依存性の解析が必要となる所以である。ここで利用する基本式は、Xeのゼオライト等への吸着等温式と同じであるので、ゼオライトについて129XeのNMR信号の圧力依存性の解析にこの式を独自の方法で適用し有用性を検討した(ISMAR国際会議発表とAnal.Sci.誌での論文発表)。我々の適用方法に有効性が確かめられたので、高分子フィルムについて適用すべく、129XeのNMR信号の圧力依存性の実験を開始したところである。
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今後の研究の推進方策 |
超偏極キセノン生成装置の改良では、偏極セルは従来110℃の恒温槽で温度均一に制御していたが、キセノンガスの流れに沿って温度分布を与える方法を検討する。ヒータによる加熱の他、必要であれば、低温媒体の循環により偏極セルを冷却することも考える。当初の目標である5~10倍の長寿命化は、応用実験における偏極セルの使用可能時間の延長で確認できたが、信号減衰定数として正確に数値化するには、減衰定数が-0.01/hour以下と小さいこともあり、100時間程度の連続運転を必要とする。タイトなNMR装置のスケジュールの間に余裕があればこのような実験にも挑戦する。 高分子の自由体積評価法の開発に関しては、129Xe化学シフトの圧力依存性が小さいことも考えられるので、ポリウレタン、テフロン、ナイロン、ポリエチレン等の基本的高分子材料を幅広く検討し、圧力依存性の大小を評価する。圧力依存性の大きい材料では、Dual Mode Sorption Modelによる解析を進め、小さい材料については、低温での圧力依存性の評価、及び、温度依存性の利用も検討する。 生体材料開発への応用に関しては、絹フィブロインを原料とするフィルムや人工血管材料の129Xe NMR測定を行い、溶解Xeの信号の強さを確認するとともに、ポリウレタンやゼラチン等の第2成分添加によるXe信号の化学シフトや強度の変化を調べる。ここでは、フイルムや凍結乾燥品等の剤型について、特にXe信号の増大をもたらす添加物の探索を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
超偏極キセノン製造に必要な狭帯域レーザーを購入したが、当初予算よりも低価格で購入することができた。このため次年度使用額が生じた。この使用額については、NMRを維持するための寒剤(液化窒素、液化ヘリウム)価格が上がった分に充当する予定である。
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