本年度は我々が既に開発した頑強で持続可能な超偏極キセノンガス生成供給装置である「循環型超偏極キセノン生成装置」をもとに、高分子の自由体積評価を容易とする方法の新規開発を目標として装置の改造とNMR基本手法の開発を行い、生体材料への適用を通して有効性・実用性の検証を行った。 超偏極キセノン法は通常のNMR法を5桁程度に感度向上可能な方法であるが、高分子へのXeの浸透が緩慢であることから更なる感度向上が必要と考え、hyper-CEST法の融合を図った。このための装置の改造として、既に我々の開発した循環型の装置にStopped-Flow法を導入し、NMR測定パルス系列「sh2SatSub」の開発を行った。これにより、hyper-CESTなしでは観察出来なかった信号が検出できるようになり、感度的には2桁程度の向上が実現できたと考えられた。この新規開発手法を、最近、国産新素材として注目されるセルロースナノファイバー(CNF)や日本の伝統的絹繊維から化学処理により得られる家蚕絹フィブロイン(SF)等のナノ空洞解析に適用し、精密な測定データの解析から自由体積サイズが評価できることを示した。CNFの自由体積サイズは陽電子消滅寿命法(PALS)により実測された報告値と適合した。SFの自由体積については、文献では水で充填された直径1~2nmの間隙の存在が報告されており、このような間隙から水が前処理段階で一部蒸散し約半分の径の空洞が出現したと推定された。また、開発した手法の基本特性評価に用いた熱可塑性ポリウレタン(TPU)では得られた自由体積サイズが文献の報告値と合致することが分かり、我々の今回開発した「循環型超偏極キセノン生成装置を利用したStopped-Flow hyper-CEST法」の有効性が確認され、生体材料開発での実用的発展に有望な結果が得られた。
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