研究課題/領域番号 |
21K18982
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石川 直人 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (20251605)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | アクチニド / 分子磁性 / 5f電子 / π電子 / 励起状態 / ランタニド / ウラン / トリウム |
研究実績の概要 |
本研究代表者らはこれまでの研究により大環状π共役系の光励起により誘起される軌道角運動量と、局在4f電子の間に強い相互作用が存在することを実験的に明らかにしている。環状π共役配位子に結合した希土類錯体において見出されたこの新しい種類の相互作用は、同じ分子内でもπ-π*励起準位の違いによって、相互作用強度の著しい変化や、強磁性的から反強磁性的への逆転が観測されるなど、これまでの考え方では説明できない興味深い性質を示した。 本研究計画は、この新しい形態の相互作用(以下、J-L相互作用と呼ぶ)が関与する新しい量子状態の研究領域を開拓することを目的とする。系統的に環状π電子系と4fおよび5f電子系の種類と構成を変えた化合物群について、温度可変・磁場可変磁気円二色性の詳細な測定と解析を行う。さらにこの相互作用の配位子依存性、励起状態依存性、金属依存性を調査する。これらをもとに、この新しい相互作用の機構を解明し、新奇量子状態の実現と制御方法を確立する。 本年度は、5f電子系におけるJ-L相互作用の研究を行うために、テトラフェニルポルフィリン(TPP)と4価ウランの2:1錯体(U(TPP)2)の合成を検討した。そのコールドラン実験として、同じ酸化数を取る同構造セリウム錯体の合成を行った。これによりウラン錯体でも適用可能な合成経路を確立した。さらにこの錯体を用いて温度磁場依存磁気円二色性(VTVH-MCD)の測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主な対象となるウラン錯体、特に4価ウランとフタロシアニンの1:1錯体(ビスアセチルアセトナトフタロシアニナトウラニウム(IV))の合成を行うために、前駆物質として、トリスアセチルアセトナトウラン錯体が必要である。これまでは、その合成が不調であったため、京都大学複合原子力科学研究所山村教授から同化合物の提供を受けていたが、今後、大阪大学にて定常的にウラン錯体の研究を行えるように、本研究室の大学院生を京都大学複合原子力研究所に派遣し、同研究所山村教授およびスタッフから化合物合成の指導を受けた。 また、テトラフェニルポルフィリン(TPP)と4価ウランの2:1錯体(U(TPP)2)の合成法を検討した。まずコールドラン実験として、同じ酸化数を取る同構造セリウム錯体の合成を行った。これによりウラン錯体でも適用可能な合成経路を確立した。さらにこの錯体を用いて温度磁場依存磁気円二色性(VTVH-MCD)の測定を行った。その結果、Ce(IV)錯体では一見予期しない著しい温度依存性が観測された。 また、嫌気下での放射性化合物の合成を行う上で必要な機材と環境を、大阪大学放射線科学基盤機構の協力のもと、進めた。一方、京都大学複合原子力科学研究所での研修では、本研究計画に参加している大学院学生が多くを学んだものの、予期しない事項として、本研修中の合成実験が不調に終わり、十分な量の前駆物質を得られなかったということが起こった。そのため、今年度は予定していたU(TPP)2の合成に至ることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで研究を進めるうえでの障害の一つになっていた、前駆物質トリスアセチルアセトナトウラン錯体の合成について、今年度ほぼ確立することができ、また、京都大学複合原子力科学研究所山村教授から同化合物の提供を受けることができた。これにより、目的とする放射性のU錯体とTh錯体の合成に進むことができる。これまでに確立した非放射性4価金属イオン(Ce(IV)、Hf(IV)、Zr(IV))を用いたフタロシアニン、ポルフィリン錯体の合成手法に基づいてこの合成研究を進める。 これまでに非放射金属イオンを用いて合成法を確立した、サイクレンを第二配位子とするフタロシアニン単層型配位構造、ポルフィリン単層型錯体、および12クラウン4を第2配位子に用いた同種配位構造を放射性U(IV)、Th(IV)に適用し、4回回転軸を保持したウラン―環状配位子1:1錯体の合成を行う。これらの錯体について、VTVH-MCDの測定を行う。 さらに、第二配位子としてサレンを持つフタロシアニン単層型配位構造、ポルフィリン単層型配位構造を放射性U(IV)、Th(IV)に適用し、4回回転軸を失ったウラン―環状配位子1:1錯体の合成を行い、VTVH-MCDの測定を行う。これらを通じて5f電子系における「J-L相互作用」の本質の解明に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
前駆物質として、トリスアセチルアセトナトウラン錯体が必要である。そのため本研究室の大学院生を京都大学複合原子力研究所に派遣し、同研究所山村教授およびスタッフから化合物合成の指導を受けた。当該大学院学生は多くを学んだものの、予期せず本研修中の合成実験が不調に終わり、十分な量の前駆物質を得られなかった。そのため、今年度は予定していたU(TPP)2の合成に至ることができなかった。これを次年度に行うことを予定しているため、これに要する費用を次年度に繰り越すこととした。
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