研究課題/領域番号 |
21K18983
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
財津 慎一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60423521)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | 光共振器 / ラマン分光法 / フィードバック制御 / ガス分析 |
研究実績の概要 |
本研究では、共振器増強ラマン分光に基づいた、新しい多成分リアルタイムガス分析法の開発を目的として研究を進めている。2年目の研究では、共振器増強ラマン分光法の励起光(Ti:Sapphireレーザー、811 nm)とプローブ光(半導体レーザー、852 nm)として、波長の異なる2つのレーザー光の共振安定化に取り組んだ。 (1)Dither locking法を用いた半導体レーザー光の共振安定化 出力されたレーザー光に250 kHzで変調をかけ、共振器からの反射光を復調することによって誤差信号を発生させた。さらに、この誤差信号を用いて、半導体レーザー周波数をフィードバック制御した。その上で、ゲインと積分に関わるパラメータを最適化することで、安定した共振状態を達成した。その結果、共振時間を10分以上に向上させ、共振器出力光パワーの揺らぎ幅も15 mWほどに抑制した。 (2)PDH法を用いた半導体レーザー光の共振安定化 本実験では、2種類のサーボA、Bを用いて、フィードバック制御を行った。サーボAではDither locking法の時と同様にパラメータの最適化を行い、サーボBでも積分周波数と比例ゲインの2つのパラメータを最適化した。これらの結果、Dither locking法を用いた際よりもより安定した共振状態を実現することが出来た。 (3)Ti : sapphireレーザーの共振安定化 PDH法によって、Ti : sapphireレーザー結合時の、共振状態フィードバック制御を行った。また、本実験では、レーザー周波数ではなく共振器長を変化させることで、共振安定化を行った。この時も、半導体レーザーの時と同様にパラメータの最適化を行うことで、安定した共振状態の維持を達成した。しかしながら、共振器出力光パワーの揺らぎ幅は±2 mW以下と非常に安定していた一方、共振時間は5分ほどしか維持することが出来なかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新しい共振器増強ラマン分光法の実現を目指して、挑戦的な萌芽段階の研究を進めている。令和4年度は、(1)共振器軸方向と非軸方向の放射散乱光の比較、(2)コヒーレントラマン散乱による信号強度増強率の測定、を予定していたが、これらに加えて、励起光・プローブ光の共振共振状態の安定化を目指したフィードバック制御に関する実験を実施した。その結果、研究実績の概要に示したように、(1)Dither locking法を用いた半導体レーザー光の共振安定化、(2)PDH法を用いた半導体レーザー光の共振安定化、(3)Ti : sapphireレーザーの共振安定化を達成した。これらの成果はいずれも、研究の目的を達成するために必要な技術であり、今回得られた実験結果は、今後の研究展開にとって極めて大きい意味を有している。そのため、おおむね順調に進展していると評価した
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、前々年度、前年度の成果を受けて、以下の研究課題に取り組む。 (1)共振器軸方向と非軸方向の放射散乱光の比較 これまでの実験では、共振器から出射される自発ラマン散乱光を、共振器軸(励起光の進行方向)と同じ方向の出射側(前方)のみにおいて観測していした。しかしながら、共振器増強法における自発ラマン光は、励起光進行方向と逆の方向(後方)、および、軸方向に対して直交する非同軸方向にも放射されていると考えられる。本実験では、光学系を新たに構築し、これまで観測していなかったこれらのラマン散乱光を観測する。観測された結果を、同軸前方ラマン散乱光と比較する。特に、非同軸方向に放射される自発ラマン散乱光は、これまで明らかになっていなかった自発ラマン散乱光の共振器増強効果に対する更なる情報が与えられると期待できる。 (2)コヒーレントラマン散乱による信号強度増強率の測定 前々年度において、自発ラマン散乱光発生の共振器増強効果について初めての観測を実現したが、本研究の目的となる気体分子の高感度分析を実現するためには、更なる信号強度の増強が求められる。これを実現するための新しいアプローチとして、「共振器増強コヒーレントラマン散乱」を採用する。自発ラマン散乱に対するコヒーレントラマン散乱の理論上の信号増強率は算出できているが、それを実験的に測定した報告は存在しない。本研究では、水素分子充填共振器内で位相整合条件下でコヒーレントストークスラマン散乱光を発生させ、同条件で発生させた自発ラマン散乱光との信号強度を比較する。これにより、気体分子の高感度分析法実現の可能性を探索する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度に導入予定していた外部共振器型半導体レーザー、および、テーパー付き半導体増幅器が、コロナ禍による製造遅延のために、入手が困難であった。そのため、これらの物品の導入を変更し、既設のレーザー装置にて実験を実施した。この差額分は、最終年度に、外部共振器型半導体レーザーのアップグレード(高速サーボ制御装置の導入)に使用する予定である。
|