研究課題/領域番号 |
21K18995
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
下村 武史 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40292768)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | イオン熱電効果 / 包接解離転移 / シクロデキストリン / 分子チューブ |
研究実績の概要 |
本研究は温度勾配下におけるイオンのもつエントロピーの輸送現象であるイオンゼーベック効果に、包接-解離現象を組み合わせ、大きな電位差を示すエネルギーハーベスターを実現し、センサーやキャパシター充電への応用を目指し実施している。 初年度である本年度は、ゼーベック効果測定システムの本目的にあわせた調整を行い、シクロデキストリンをエピクロロヒドリンで架橋したゲルの作製を行い、ヨウ素ーヨウ化カリウム水溶液で膨潤させ、イオン熱電効果の発現とシクロデキストリンによるヨウ素イオンの包接によるイオン熱電効果の影響を調査した。 20℃付近ではイオン熱電効果に特有のmV/Kオーダーの大きなゼーベック効果を得ることができなかった一方、温度を少し上昇させると、30℃付近では1 mV/K程度の比較的大きな負のゼーベック効果を発現することが明らかとなった。これは20℃付近では、シクロデキストリンがヨウ素イオンの多くを包接しており、系内に動くことのできるイオンが少なく、熱電効果が顕著に顕れなかったのに対して、温度を上げるとヨウ素イオンが解離し、低温側と高温側のヨウ素イオンに濃度差が顕著についたためであると考えられる。このように包接解離現象をイオン熱電現象に組み合わせた影響を確認することができた。 一方で、用いたゲルの作製方法ではシクロデキストリンの導入率の制御が困難で、ゼーベック係数の絶対値を上昇させるなどの調整に難があることが明らかとなった。そこでポリビニルアルコールやアクリレート系のポリマーをマトリックスとしてシクロデキストリンを導入率を正確に制御し、シクロデキストリンの導入率を高温側から低温側へと傾斜させることで狙った大きなゼーベック係数を得ることを今後の計画に加えることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度である本年度は、ゼーベック効果測定システムの本目的にあわせた調整を行い、シクロデキストリンをエピクロロヒドリンで架橋したゲルの作製を行い、ヨウ素ーヨウ化カリウム水溶液で膨潤させ、イオン熱電効果の発現とシクロデキストリンによるヨウ素イオンの包接によるイオン熱電効果の影響を調査した。 20℃付近ではイオン熱電効果に特有のmV/Kオーダーの大きなゼーベック効果を得ることができなかった一方、温度を少し上昇させると、30℃付近では1 mV/K程度の比較的大きな負のゼーベック効果を発現することが明らかとなった。これは20℃付近では、シクロデキストリンがヨウ素イオンの多くを包接しており、系内に動くことのできるイオンが少なく、熱電効果が顕著に顕れなかったのに対して、温度を上げるとヨウ素イオンが解離し、低温側と高温側のヨウ素イオンに濃度差が顕著についたためであると考えられる。このように包接解離現象をイオン熱電現象に組み合わせた影響を確認することができた。 当初の目的通りの構造の作製およびその物性測定を行い、包接解離現象の影響をみることもできたが、全体のシクロデキストリンによるイオンの包接の効果が高温側においても比較的大きく、当初の予定と比較するとゼーベック係数を大きく上昇できないという結果となった。そのため、この点へ対応するための材料設計方針の見直しを行う必要が発生し、現在、実施中である。以上のことから進捗状況はやや遅れていると評価するが、研究計画は着実に進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況に示したように、当初計画の方法ではシクロデキストリンの導入率が正確に制御できず、構造の設計見直しが必要であることが明らかとなった。そこでポリビニルアルコールやアクリレート系のポリマーをマトリックスとしてシクロデキストリンを導入率を正確に制御し、シクロデキストリンの導入率を高温側から低温側へと傾斜させることで狙った大きなゼーベック係数を得ることを今後の研究計画に加えることとした。この合成完了後、同様の実験から大きなゼーベック係数を得る。続いて、当初の計画に戻り、電解質を高分子電解質のヨウ化物塩へと変更し、カチオンの動きを止め、中心温度や温度幅を細かく振りながら測定することで、包接解離現象とイオン熱電効果の相乗効果を明らかとし、その有用性を示す。 以上を達成した後にシクロデキストリンをエピクロロヒドリンで架橋した(ポリロタキサンを経由して)分子チューブに変更し、包接-解離が転移となるように調整し、より大きな電位差の形成を目指す。また、温度差解消による放電時の、過渡的な電流、電圧から、充電されているエネルギーを見積もり、熱容量から想定される試料がヒーターから得たエネルギーとの比から、内部変換効率の算出を行い、エネルギーハーベスターの実証への足がかりとする。
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