研究課題
π共役系の炭素を電気陰性度の大きい窒素に置換(アザ置換)すると、最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)が安定化され両方のエネルギー準位が下がる。本研究では、孤立LUMOのアザ置換による選択的引き下げを体系化し、狭エネルギーギャップ化の新戦略として確立する。拡張π共役系を持つ分子は、分子間相互作用に起因する濃度消光のため、一般的な有機発光色素と同様に固体発光性が失われ易い。そこで本研究では、固体発光効率96%の分子を基盤とし、孤立LUMOでアザ置換した分子を合成し、近赤外発光固体発光性を得た。発光極大波長をアザ置換により150 nm長波長側にシフトできた。また、近赤外領域では小さな分子のエネルギー変化でも大きな幅の発光波長のシフトとなることが物理学的には予想でき、高感度化が期待できる。この考えの妥当性を示すために、アザ置換前後の分子のメカノクロミズム挙動を比較したところ、元の分子ではほとんど変化が見られなかったことに対し、アザ置換体では20 nm以上の変化が観測され、仮説の妥当性が証明された。孤立LUMOを意図的に創り出し、既存のπ共役分子を近赤外発光色素化することを目指した。ベンゼン環のパラ位の炭素をアザ置換すると、縮退していたLUMOのエネルギーが引き下げられ、孤立LUMOが得られることが量子化学計算より示唆された。さらにホウ素化でもう一段階の狭ギャップ化と近赤外発光性の付与が予想できた。実際、分子を合成して光学測定を行ったところ、720 nmの発光が得られ、本手法の妥当性が支持された。さらにアザ置換部位にプロトネーションさせることで発光強度変化を引き起こすことも達成し、LUMOの選択的引き下げによる狭エネルギーギャップ化のみならず、環境応答性の付与も達成することができた。
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