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2022 年度 実施状況報告書

光により可逆的に重合・脱重合するペプチドからなる人工細胞骨格の創製

研究課題

研究課題/領域番号 21K19008
研究機関鳥取大学

研究代表者

松浦 和則  鳥取大学, 工学研究科, 教授 (60283389)

研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2024-03-31
キーワードペプチドナノファイバー / 人工細胞骨格 / スピロピラン / β-シート / 光異性化 / 自己集合 / リポソーム
研究実績の概要

細胞内には、微小管・アクチンフィラメントといったタンパク質繊維状集合体からなる「細胞骨格」が存在しており、それらの伸長・収縮、繊維間での相互作用、細胞膜や細胞内分子との相互作用により、細胞の形態変化・遊走・分裂・オルガネラ配置などを動的に制御している。このような細胞骨格の動的制御を模倣して、重合・脱重合を可逆的に動的制御できる分子集合体からなる「人工細胞骨格」を創製すれば、超分子化学・ナノマテリアル化学といった学術分野の方向性を大きく転換できると期待される。これまで、外部刺激によるペプチドの繊維状分子集合体の動的制御を試みた研究がいくつか報告されているが、それらは不可
逆的な重合制御や、わずかな構造変化を誘起しているにすぎないものであり、可逆的に重合・脱重合を制御したペプチド繊維集合体からなる人工細胞骨格の創製は全く報告されていない。本研究では、ペプチドナノファイバーの重合・脱重合を光制御する方法論を開拓し、リポソームや細胞の変形・運動を動的制御する人工細胞骨格を創製することに挑戦する。
今年度までに、スピロピラン(SP)を修飾したβ-シート形成ペプチドを合成し、SPのメロシアニン(MC)への光異性化により、ペプチドナノファイバー形成・解離(重合・脱重合)を光により動的制御することに成功した。また、この光により重合・脱重合する人工細胞骨格システムをジャイアントリポソーム内に導入し、リポソームの劇的な変形を誘起することに成功した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

昨年度までに、中央にCys残基を有するβシート形成ペプチドFKFECKFEを合成し、Cysにスピロピランを修飾したFKFEC(SP)KFEを合成・精製することに成功した。また、CDスペクトル測定・透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、FKFEC(SP)KFEはβシート構造形成により繊維状集合体を形成することが確かめられた。これに350nmの光を照射することで、メロシアニン(MC)に異性化したFKFEC(MC)KFEとすると、βシート構造および繊維状集合体が完全に消失することがわかった。このように、FKFEC(SP)KFEを用いることで、ペプチドナノファイバー形成・解離の光制御に成功した。
本年度は、FKFEC(MC)KFEをジャイアントリポソーム(GUV)に内包させ、光異性化によるペプチドナノファイバーの形成・解離に伴うリポソームの変形を共焦点レーザースキャン蛍光顕微鏡(CLSM)で観察した。その結果、大変興味深いことに、FKFEC(MC)KFE ペプチドを内包した球状GUVに可視光照射すると、大きな形態変化が誘起され、ワーム状ベシクルになることが観察された。このワーム状ベシクルにUV光を照射すると、球状GUVに完全に戻ることがわかった。したがって、光異性化によるペプチドナノファイバーの形成・解離により、可逆的にGUVの劇的な形態変化を誘起することに成功した。
この成果は、Frontiers in Molecular Biosciences, 10, 1137885 (2023)に論文発表した。

今後の研究の推進方策

これまでに、FKFEC(MC)KFEを内包したジャイアントリポソーム(GUV)の光による劇的な形態変化を見出したので、GUVの組成を変化させ、光による形態変化に対する膜流動性の影響を詳しく解析する。その結果を踏まえ、相分離リポソームに対する光による局所的な形態変化を誘起させるシステムを構築する。
また、肝がん由来HepG2細胞に毒性が出ない程度の濃度でFKFEC(MC)KFEをエレクトロポレーション法などで導入し、細胞内での人工細胞骨格の重合・脱重合の光制御が可能かどうか検討する。SP/MC-ペプチド内包細胞の特定位置に光プローブを用いて可視光およびUV光照射することで、細胞内に人工細胞骨格を異方的に形成させ、異方的な細胞変形・運動が誘起できるかどうかといった課題にも挑戦する。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Dramatic morphological changes in liposomes induced by peptide nanofibers reversibly polymerized and depolymerized by the photoisomerization of spiropyran2023

    • 著者名/発表者名
      Liang Yingbing, Ogawa Shigesaburo, Inaba Hiroshi, Matsuura Kazunori
    • 雑誌名

      Frontiers in Molecular Biosciences

      巻: 10 ページ: 1137885

    • DOI

      10.3389/fmolb.2023.1137885

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 光異性化により可逆的に集合・脱集合するペプチドナノファイバーによるリポソーム変形2023

    • 著者名/発表者名
      梁応冰,小河重三郎,稲葉央,松浦和則
    • 学会等名
      日本化学会 第103春季年会
  • [学会発表] 自己集合性ペプチドによる 分子サイバネティクス材料の創製2023

    • 著者名/発表者名
      松浦和則
    • 学会等名
      分子サイバネティクス×超越分子システム合同シンポジウム2023
    • 招待講演
  • [学会発表] 光により可逆的に重合・脱重合するペプチドナノファイバーの創製2022

    • 著者名/発表者名
      梁応冰,稲葉央,松浦和則
    • 学会等名
      第71回高分子討論会
  • [学会発表] ペプチドから走光性材料やウイルスレプリカを創る2022

    • 著者名/発表者名
      松浦和則,古川寛人,八田健志,稲葉央
    • 学会等名
      「細胞を創る」研究会 15.0
    • 招待講演
  • [学会発表] Reversible Peptide Nanofibers Formed and Dissociated by Light2022

    • 著者名/発表者名
      Yingbing Liang, Hiroshi Inaba, Kazunori Matsuura
    • 学会等名
      第59回ペプチド討論会
  • [学会発表] 光により可逆的に集合・脱集合するペプチドナノファイバーの創製2022

    • 著者名/発表者名
      梁応冰,稲葉央,松浦和則
    • 学会等名
      2022年 繊維学会秋季研究発表会
  • [図書] Molecular Robotics: An Introduction2022

    • 著者名/発表者名
      Satoshi Murata (Ed)(Chapter 4.9 pp.167-173を松浦が執筆担当)
    • 総ページ数
      296
    • 出版者
      Springer Nature Singapore
    • ISBN
      978-981-19-3986-0

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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