研究実績の概要 |
細胞内には、微小管・アクチンフィラメントといったタンパク質繊維状集合体からなる「細胞骨格」が存在しており、それらの伸長・収縮、繊維間での相互作用、細胞膜や細胞内分子との相互作用により、細胞の形態変化・遊走・分裂・オルガネラ配置などを動的に制御している。このような細胞骨格の動的制御を模倣して、重合・脱重合を可逆的に動的制御できる分子集合体からなる「人工細胞骨格」を創製すれば、超分子化学・ナノマテリアル化学といった学術分野の方向性を大きく転換できると期待される。これまで、外部刺激によるペプチドの繊維状分子集合体の動的制御を試みた研究がいくつか報告されているが、それらは不可 逆的な重合制御や、わずかな構造変化を誘起しているにすぎないものであり、可逆的に重合・脱重合を制御したペプチド繊維集合体からなる人工細胞骨格の創製は全く報告されていない。本研究では、ペプチドナノファイバーの重合・脱重合を光制御する方法論を開拓し、リポソームや細胞の変形・運動を動的制御する人工細胞骨格を創製することに挑戦する。 これまでに、スピロピラン(SP)を修飾したβ-シート形成ペプチドを合成し、SPのメロシアニン(MC)への光異性化により、ペプチドナノファイバー形成・解離(重合・脱重合)を光により動的制御することに成功した。また、この光により重合・脱重合する人工細胞骨格システムをジャイアントリポソーム(GUV)内に導入し、GUVの劇的な変形を誘起することに成功しFrontiers in Molecular Biosciences, 10, 1137885 (2023)に論文発表した。 さらに、GUVを構成する脂質の流動性により、光応答性ペプチドナノファイバー形成による膜の変形が大きく影響されることを見出した。この特性を利用して、光による相分離GUVの局所的な変形にも成功した。
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