令和3年度にエッジ部分に活性部位を有するナノグラフェンを合成し,令和4年度に触媒を用いた炭素-炭素結合形成反応について検討した。いくつかの反応条件を検討した結果,反応が一部進行していることを分光学的に確認したが,ナノグラフェン全体での反応の進行は確認できなかった。そこで,条件の最適化を検討する前に,エッジ部分での有機置換基同士の相互作用を検討した。これは反応活性部位を有する有機置換基の最適な距離を明らかにするためである。疑似3回対称性の化合物を合成し,それをナノグラフェンのエッジ部分に導入した。このハイブリッド化合物について,様々な溶媒系でその挙動を紫外可視吸収スペクトル、発光スペクトル、そして核磁気共鳴分光法にて解析した結果,導入した疑似三回対称性化合物同士が相互作用することが確認された。この結果は,研究計画の当初案通り,エッジに導入した有機置換基の隣接距離は,それ同士が相互作用できる距離にあることを示すものである。さらに,計算化学的にも隣接距離が十分に近いことが確認された。具体的には,分子間相互作用することで吸収スペクトルと円二色性スペクトルが変化する有機置換基をナノグラフェンに導入し,そのスペクトルを測定した。その後,このナノグラフェンのエッジ構造を模したモデル化合物を用いて量子化学計算を行い,そのスペクトルの再現性について検討した結果,実測のスペクトルと計算化学的に得られたスペクトルが一致し,その距離が10Å以内にあることを確認することができた。そこで,この成果を基盤とし,反応活性部位を有する有機置換基の再設計を行っている。これらの成果の他に,本研究を推進した結果,金属ナノ粒子がナノグラフェンの表面に吸着することを明らかにした。さらに,ナノグラフェン同士が溶媒条件や温度条件で可逆的に自己組織化することを明らかにした。これら一連の成果を学術論文として出版した。
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