研究課題/領域番号 |
21K19013
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
吉尾 正史 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (60345098)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | 強誘電体 / 有機半導体 / 液晶 / 自発分極 / 光電変換 / 電荷輸送 / キュービック液晶 |
研究実績の概要 |
強誘電体の自発分極によるバルク電界と有機半導体機能をカップルさせることで従来の有機半導体薄膜太陽電池と異なる原理に基づく光電変換素子の構築が期待されている。本研究では、強誘電性を示す新規半導体液晶を開発することを目的とし、特に、長距離での分子配向をしなくても電子性キャリア輸送パスが連結できる共連続キュービック液晶相の発現を目指した。本研究では、水素結合性ジオール基を有する長鎖アルキル置換フェニルターチオフェン誘導体を設計・合成し、それらの液晶性および電荷輸送機能を調べた。アルキル鎖の置換位置および本数を変えることで、発現する液晶相が劇的に変わることが明らかとなった。三本のドデシル鎖を導入した楔型分子では、幅広い温度範囲でキュービック液晶相およびレクタンギュラーカラムナー液晶相を形成することがわかった。従来の棒状型オリゴチオフェンでは層状構造を形成するが、ジオール基の分子間水素結合によって筒状の組織構造を形成したと考えられる。飛行時間法による電荷移動度測定では、キュービック液晶相において10-3 cm2 V-1 s-1以上の電子およびホール移動度が得られた。キュービック液晶相での強誘電相発現を目指して、様々なキラル炭素有するドーパントとの複合化を行った。ソーヤ・タワー法による強誘電相の自発分極を評価した。例えば、キラルアルキル鎖を導入したフェニルターチオフェン誘導体との複合体において、強誘電性に由来する印加電界と分極の関係を示すヒステリシスループを観測することに成功した。また、キラルドーパンとの濃度および種類を変えることで自発分極値を調節できることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に従って、新規の楔形分子構造のπ共役分子を合成した。特に、ジオール構造を導入したオリゴチオフェン誘導体において、分子間水素結合性に起因したカラムナー液晶相およびキュービック液晶相を発現させることに成功し、バイポーラ-電荷輸送を達成した。さらに、キラルドーパントを添加した液晶相において、強誘電相の形成を示唆する分極-電界ヒステリシスを見出した。今後は、バルク光起電力の計測を先鋭化する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、ラセミ体1,2-プロパンジオール基を有するフェニルターチオフェン誘導体とキラルドーパントの複合液晶について研究を実施したが、次年度はキラルな1,2-プロパンジオール基を導入した単一でのキラル強誘電半導体液晶の開発を行う予定である。さらに、電荷移動度の高速化を目指して、π共役縮環構造のチエノアセンを電子性コアとする強誘電性液晶の構築を推進する。また、円偏光二色性分光測定、X線回折測定、電子線回折測定によって、キラル構造の同定を目指す。従来の有機薄膜太陽電池を凌駕する開放電圧ならびに電流生成を実現する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学会発表がオンライン発表となったため発表を延期した。これにより、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせて、電気計測に関する業務支援のための技術員雇用費に充当する予定である。
|