研究課題/領域番号 |
21K19018
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西井 準治 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60357697)
|
研究分担者 |
藤岡 正弥 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (40637740)
田中 将嗣 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (90597650)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | 光触媒 / 高圧合成 / 電気化学 / 擬似酸化物 |
研究実績の概要 |
TiO2は優れた光触媒として知られているが、活性を得るには紫外線の照射が必要であり、可視光だけで容易に清浄環境を作り出す革新的光触媒材料が求められている。 そこで、本研究では擬似酸化物(TiNF)に着目した。擬似酸化物とは、窒化物イオン(N3-: 1.46Å)とフッ化物イオン(F-: 1.33Å)の平均イオン半径および平均価数が、酸素物イオン(O2-: 1.40 Å)とほぼ等しいため、これらを等量混合した複合アニオン化合物が、酸化物と類似の基本構造や機能発現が実現できるという考えから生まれた概念である。第一原理計算から、この擬似酸化物を仮定したTiNFのバンド構造は可視光での活性が期待される。 本研究ではTiNFの実現を目指し、既存化合物である層状化合物TiNClを一旦合成し、塩化物イオンサイトをフッ化物イオンで置き換える。2021年度は、TiNClの合成法の詳細を再検討し、均質な試料を得た。また合成温度の違いによって水素がわずかに含まれ、これが物性に影響を及ぼすことを明らかにした。次に、塩化物イオンのフッ化物イオン置換を高圧固体電気化学法を用いて実施した。この手法はイオン拡散を利用した物質合成手法である。TiNClの弱結合イオン種であるClイオンを除去すると同時に、フッ化物イオン伝導体からFイオンを供給し、塩化物イオンサイトに導入する。本手法は温度・圧力・電圧の3つの合成パラメータに加えて、処理時間や圧力セル内部のセットアップを最適化する必要がある。現在これらのパラメータを調整している段階ではあるが、既に得られた試料の組成分析から、TiNClにフッ化物イオンが導入されることを確認している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「擬似酸化物」の概念は1967年に提唱され、これまで実現に向けた種々の研究が行われたが、未だに実現には至っていない。また擬似酸化物に限らず、金属窒化フッ化物自体の報告が40件程度であり、TiNFの開発は極めて挑戦的である。本研究ではこの物質開発の実現に母相として層状窒化ハロゲン化物(TiNCl)を採用したが、この物質自体がアンモニアを反応場とした特殊な合成手法により初めて得られるものであり、単相試料を効率的に合成することは難しい。 2021年度はこの合成手法を改善し、良質なTiNClが得られる合成プロセスを確立することに成功した。これに伴い、今後の研究開発の加速が期待される。また、光学特性を明らかにするため、多結晶試料の拡散反射が可能な紫外可視近赤外分光光度計(V-770)を導入し、測定系を構築した。さらに、高圧固体電気化学法による塩化物イオンサイトのフッ化物イオン置換を実施するにあたり、適切なフッ化物イオン伝導体、および塩化物イオン伝導体を選定する必要がある。現在試験的に種々の固体電解質を準備し、効果的にイオン拡散を促す物質の探索を進めているところである。既に一部のフッ化物イオンが試料内部に導入できることを見出しており、一年目の進捗状況としては順調に研究が進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
擬似酸化物TiNFの合成はTiNClから塩化物イオンが拡散する温度と、フッ化物イオン伝導体からフッ素が排出される温度域が同程度になるように、圧力セル内部の材料を選定する必要がある。現在この段階の実験を進めており、最適化するためには、十分な試行回数が必要である。 上記の2種類のイオン拡散を同時に調整することは難しく、まずは塩化物イオンが取り除かれる最適条件から調査し、次にフッ化物イオン拡散について調整する。最終的に両者のイオンを適切な温度域で同時に拡散させるセットアップを構築し、擬似酸化物の合成を狙う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の必要な消耗品が入手困難となったため、次年度に繰り越した。
|