研究課題/領域番号 |
21K19019
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
雨澤 浩史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90263136)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | デュアル固体セル / 化学ポテンシャル / 電気化学制御 |
研究実績の概要 |
本研究では,2つの元素の化学ポテンシャルを同時,独立かつ任意に制御し得るデュアル固体セルにより,従来の単一セルでは不可能であった,欲しい化合物を,欲しい時に,欲しいだけ選択的に分別合成できる「革新的なオンデマンド選択電解プロセス」の構築を目的とする。多元系化合物の選択電解合成では,熱力学的には複数元素の化学ポテンシャルの同時制御が必要だが,それを任意に実現する電解プロセスはこれまで皆無であった。このような現状を踏まえ,CO2からのCH4などC-H-O化合物の選択合成をモデルケースに,固体の酸化物イオン伝導体およびプロトン伝導体を電解質とするデュアル固体セルを構築し,上述のオンデマンド選択電解プロセスのコンセプトを実証する。 今年度は,まず,固体の酸化物イオン伝導体,プロトン伝導体を電解質とする2つの固体セルからなるデュアル固体セルの構築ならびにこれを用いたC-H-O化合物の選択合成を試みた。作動温度は,C-H-O化合物が比較的安定に存在し得る中低温(600℃以下)とし,電解質には,この温度域において,比較的高いイオン導電率を有するZrO2系材料(酸化物イオン伝導体),SrZrO3系材料(プロトン伝導体)を使用した。電極としては,ガス反応に対する触媒作用が期待される白金Pt電極あるいはNiサーメット電極を用いた。両セルに挟まれた空間(反応場)における酸素化学ポテンシャルμ(O),水素化学ポテンシャルμ(H)を任意の値に制御するために,それぞれのセルに印加する電圧を独立に制御した。ガスクロにより出口ガスの組成分析を行うことで,生成物を定量評価した。その結果,各々のセルに印加された電圧に応じて,出口ガスの主成分がCO2,H2,H2O,CH4で変化することを見出した。CH4ガスが合成される印加電圧条件は,化学平衡計算から予測される条件と定性的に合致した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,2つの元素の化学ポテンシャルを同時,独立かつ任意に制御し得るデュアル固体セルにより,欲しい化合物を,欲しい時に,欲しいだけ選択的に分別合成できる「革新的なオンデマンド選択電解プロセス」の構築を目的としている。初年度は,CO2電解によるC-H-O化合物の選択合成を念頭に,デュアル固体セル構築とそのオンデマンド選択電解の実証を計画していた。まず前者に関しては,ZrO2系材料(酸化物イオン伝導体),SrZrO3系材料(プロトン伝導体)を使用したデュアル固体セル構築を行った。また,実際の作動が想定される温度,酸素分圧(水素分圧),水蒸気分圧において個々のセルが動作することを確認した。後者に関しては,CO2-H2ガスフロー下で,それぞれのセルに印加する電圧を独立に制御し,その際に生成されるガスの分析を行った。その結果,印加する電圧に応じて,生成ガスを選択的に制御できることを確認した。この結果は,本研究で提案したコンセプトを実証するものであり,これを元に,現在,特許の申請手続きを行っている。このように,本研究は,当初の計画に即して,概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度までに,2つの元素の化学ポテンシャルを同時,独立かつ任意に制御し得るデュアル固体セルによる「革新的なオンデマンド選択電解プロセス」のコンセプトを実証することができた。この結果を踏まえ,今年度前半には,基本的には同じ構成のデュアル固体セルを用い,より詳細な合成条件の制御と生成物の分析を実施する。特に,現時点ではセルに印加する電圧での制御は行えているものの,これらにより意図した酸素化学ポテンシャルμ(O),水素化学ポテンシャルμ(H)が達成されているかについては十分に明らかにされていない。そこで,デュアル固体セルに印加する電圧の基準とできる参照極を導入し,これを解決する。これらの研究により,デュアル固体セルによるオンデマンド選択電解プロセス構築のための学理を確立する。 さらに今年度後半には,本研究で提案したコンセプトを展開し,異なる組み合わせのデュアル固体セルを構築し,「CO2電解によるC-H-O化合物の選択合成」以外の選択電解プロセスへと発展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本予算では,当初,電気化学測定装置の新規購入を予定していたが,研究を実施していく中で,既存装置の利用が可能となった。その一方で,初年度の研究により,デュアル固体セルを用いたC-H-O系ガスの選択的合成に成功し,本研究で提案する革新的オンデマンド選択電解プロセスのコンセプト実証に成功した。これを踏まえ,次年度は,より精密な条件制御が可能な実験系の構築を計画しており,次年度に繰り越した予算をこれに充当することを予定している。
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