研究課題/領域番号 |
21K19021
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
柳 博 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30361794)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | アモルファス酸化物半導体 / 磁性半導体 / 磁気抵抗 |
研究実績の概要 |
代表的な導電性酸化物であるIn2O3と遷移金属(TM)酸化物をターゲットに用いてスパッタリング法により製膜することでアモルファスIn-TM-O酸化物半導体の製膜に取り組んだ。d電子数の異なる2種の遷移金属酸化物を選択し製膜を試みたところ、いずれにおいてもアモルファス薄膜を得ることができた。伝導型をゼーベック係数、ホール係数で判定したところ、いずれの係数も負の値を示しn型伝導であることが明らかとなった。アモルファス半導体一般ではゼーベック係数とホール係数の符号が一致しない現象がしばしば認められるが今回はこれらの値は一致した。アモルファス酸化物半導体全般で同様の傾向を示しており、遷移金属を加えた系でも変化がないことが明らかとなった。 今回得られた薄膜は可視域で80%以上の透過率を有しており透明アモルファス酸化物半導体が実現したことが明らかとなった。電気低効率の温度依存性は、温度低下に伴い抵抗率の上昇が認められた。室温付近では熱活性型の温度依存性を示したが、低温ではバリアブル・レンジ・ホッピング機構に移行した。多くの試料では磁場印可に対して負の磁気抵抗を示したが、ある組成を持つ試料においては<30 Kの温度域において正の磁気抵抗に変化した。抵抗の変化率は温度減少とともに増加し、5 Kにおいて20~30%の抵抗率の上昇を観測した。伝導機構がバンド伝導からバリアブル・レンジ・ホッピングに移行することにより局在化した伝導電子が遷移金属イオンと相互作用して正の磁気抵抗を生じた可能性が考えられるが、詳細は今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規透明アモルファス酸化物半導体In-TM(遷移金属元素)-Oにおいて磁気秩序の発現を目指した研究を遂行している。今年度の研究では、新しく作成した新規透明アモルファス酸化物半導体において低温で正の巨大磁気抵抗の発現を見出すことができた。この巨大磁気抵抗発現メカニズムは不明であるが、キャリア電子と磁性イオンとの相互作用がかかわっていると考えられる。電気抵抗率の温度依存性測定から低温ではバリアブル・レンジ・ホッピング機構が主であることが明らかになっており、キャリア電子はある程度局在化していると考えられる。室温でアモルファスIn-TM-Oと同程度の電気抵抗率を有するアモルファスIn-O薄膜では正の磁気抵抗は認められないことから磁性イオンの存在も重要であると考えられるが、遷移金属の種類や濃度と正の巨大磁気抵抗の発現の有無や大きさに系統的な変化が得られていないことから、現時点で制御できていないパラメーターの存在が示唆される。半年足らずの研究期間において、透明アモルファス酸化物半導体の磁気特性を発現させる成果を上げていることから研究は順調に推移していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
現在の課題の1つは磁性イオン濃度と正の巨大磁気抵抗に系統的な変化が認められないことである。磁性イオン濃度が数at.%で正の磁気抵抗を示す試料もあるが、数十%添加しなければ示さない試料もある。また磁性イオンのd電子数との相関関係も現時点では認められていない。「現在までの進捗状況」でも述べたように制御できていないパラメーターの存在が示唆されているので、これを明らかにして制御していくことが求められる。これを明らかにしたうえで磁性イオン種、濃度の最適化と磁気特性の相関関係を明らかにしていくとともにキャリア濃度などの他の物性パラメーターとの相関関係も明らかにしてく。これらを通してキャリア電子と相互作用をしている磁性の解明を進め、この磁気特性発現温度の上昇を図る。これらと並行して製膜条件やポストアニール条件の制御を通して局所構造制御手法の確立などに取り組む。これらを合わせることで室温での磁性発現という本研究課題の達成を目指していく。
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