研究課題
本研究では、ダイヤモンドアンビルセル (DAC) を用い、超高圧下で誘起される分子骨格の歪み・捻れ・空隙変形の観察を通じて、新概念「Molecular Elasticity (分子弾性)」を提唱し実証することを目的としている。本年度は以下の研究成果を得た。(1)発光性多核錯体の合成と結晶試料作成:結晶構造と固体発光特性の圧力応答性を観測するため、柔軟なコア構造を持つ遷移金属d10電子配置の発光性多核クラスター化合物を合成した。具体的にはCu(I)、Ag(I)、Au(I)の四核キュバン型クラスターと六核パドルホイール型クラスターを合成し、単結晶X線構造解析により分子構造と結晶パッキング構造を同定した。(2)高圧下での粉末X線回折実験と構造解析:SPring-8ビームラインにて、高圧下での粉末X線回折実験と構造解析および高圧発光測定を行ったところ、同一組成の結晶でもパッキング構造の異なる多形間では、構造歪みや発光スペクトルの圧力応答性に違いが生ずることがわかった。興味深いことに、高圧下で起こる単一分子の変形は、その分子対称性を保持したまま進行することが判明した。結晶空隙に溶媒ゲスト分子を含む擬多形結晶においては、個々の分子は対象軸周りの空隙方向へ分子間のぶつかりを解消するように変形した。すなわち高圧下での分子歪みの様子を分子・原子レベルで捉えることに成功した。(3)高圧下での固体発光ピエゾクロミズム:Ag四核キュバン型クラスターの結晶多形の固体発光において、多形間で異なる圧力応答性すなわち固体発光ピエゾクロミズムが発現することを見出した。さらに本年度に新規合成したAu四核クラスターについても種々の条件下で結晶化を試みたところ、2つの多形が生成することを見出した。これら2多形についても固体発光ピエゾクロミズムを調査中である。
2: おおむね順調に進展している
当初予定した計画は順調に進行し、新しい知見が得られた。来年度への課題も明確化された。
本年度は比較的限られた試料を用いた研究であったので、今後は対象化合物の拡充を図り研究を進める。具体的にはCu(I)、Ag(I)、Au(I)錯体の多様な核数、コア構造、金属間距離、配位子誘導体をもつクラスター化合物に加え、共同研究により、柔軟な結晶構造をもつ有機包摂結晶や圧力による伸び縮みが期待される新規三重らせん型分子について新たな検討を始める。金属錯体結晶と有機結晶を対象とした研究を実施し、高圧下での構造歪みと固体発光ピエゾクロミズムの網羅的解析と相関解明を行うことにより、高圧印加に伴う分子の弾性的性質 (molecular elasticity) を明らかとする。さらに、分子結晶へ高圧印加することにより、結晶相転移や高圧固相反応の誘起、未知結晶構造の生成も期待される。
当該助成金が生じた状況:成果発表する予定であった学会・シンポジウムが全てオンライン形式となったため、旅費が発生しなかった。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画:高騰している貴金属試薬を必要量購入することに物品費を充当する。また、国内・国際学会等が対面式で開催されるようになった場合には、旅費として充当する。
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