本研究では、光ファイバ通信やレーザー発振時に不可欠な光増幅を、レーザーのようなハイパワー励起ではなく、太陽光励起により実現する革新的な光増幅システムの創出を目的とし、増感色素(ドナー)からの希土類イオン(アクセプター)への高効率エネルギー移動により微弱な光でも希土類イオンの反転分布形成を促す新しい光増幅手法の確立を目指し研究を進めている。 一般に光増幅には、希土類イオンを光ファイバのコアであるシリカ等に添加し増幅媒体とした光ファイバ増幅器が用いられている。各種の光通信波長帯を増幅するため、エルビウムイオン(Er3+)などが利用されているが、反転分布形成には半導体レーザーを用いた光励起が必要となる。本研究では、光吸収能の非常に高いペロブスカイト系化合物や有機分子などの色素と希土類イオンを融合し、それらの間で生じる励起エネルギー移動を利用することで、太陽光よりも微弱な光による希土類イオンの反転分布状態の形成と光増幅を実現する革新的な手法の構築に成功した。 これまでに、高い光吸収能を持つハロゲン化鉛ペロブスカイト結晶をエネルギードナーとし、その格子内あるいは層間に希土類イオンを配置することで、量子切断型のエネルギー移動を介した100%を超える高効率近赤外発光と自然放射増幅光(ASE)の検出に成功した。さらに共振器構造と組み合わせた基板を作製した。本素子では、ソーラーシュミレータを用いた太陽光照射下においてもASEを発現することが明らかとなった。薄膜形成やポリマー分散など構造最適化を進めたところ、レーザー発振を示唆する結果も得られた。
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