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2021 年度 実施状況報告書

膵臓がん細胞集団の捕食機構を解明・利用したトロイの木馬型がん治療薬の開発

研究課題

研究課題/領域番号 21K19036
研究機関北海道大学

研究代表者

高野 勇太  北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (60580115)

研究分担者 宮武 由甲子  北海道大学, 医学研究院, 助教 (10421984)
山田 勇磨  北海道大学, 薬学研究院, 准教授 (60451431)
繁富 香織  北海道大学, 高等教育推進機構, 特任准教授 (90431816)
研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2023-03-31
キーワードすい臓癌 / 量子ドット / 細胞死 / 光治療 / 光がん治療 / 活性酸素
研究実績の概要

本年度は当初計画通り、「[段階-I] 捕食誘引物質の粗分離、観察、構造決定による同定」にとりかかり、膵がん細胞の死細胞を調製した上で捕食誘引物質の分離を開始した。まず、死細胞について大きく「アポトーシス様死細胞」と「ネクローシス様死細胞」に分けて調製し、それぞれ膵がん細胞より再構築したミクロ組織3次元と共培養しながらリアルタイム顕微鏡観察を行い、取り込まれる挙動の観察を行った。この際、コントロール条件として1μm(大体アポトーシス死細胞と同サイズ)のCOOH修飾蛍光ビーズを用いた。結果、COOH修飾蛍光ビーズでは細胞への取り込み、特に細胞集団が触手を伸ばすなどの能動的な取り込みは起きないことを確認した。そして「アポトーシス様死細胞」と「ネクローシス様死細胞」は両者とも取り込まれることを確認したが、ネクローシス様死細胞では取り込みがやや少ない傾向にあった。これはネクローシスでは死細胞構造がランダムであるとともに、細胞内容物が維持できないことが一因であると考えられた。よって、今後の検討は主にアポトーシス様死細胞で行うこととした。現在は、アポトーシス様死細胞の大量調製と、粗分離を開始したところである。
また、「[段階-II]捕食誘引物質を複合化した高薬効性の光がん治療薬の合成開発」の準備段階として、量子ドットに近赤外光殺がん分子(rTPA)を接合した複合体や、ドラッグデリバリキャリアとrTPAの複合化も行い、その一重項酸素発生能および光殺がん効果を確認した。本研究の遂行によってドラッグデリバリキャリアとrTPAの相性により、内容分子の機能性(本研究の場合は光殺がん性能)が変化することが分かった。今後、最適化を進め最大効率で殺がん効果を示す複合体プロトタイプを作成し、本研究の目的とするトロイの木馬型殺がん化合物を完成させる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は当初計画通り、「[段階-I] 捕食誘引物質の粗分離、観察、構造決定による同定」にとりかかり、膵がん細胞における「アポトーシス様死細胞」と「ネクローシス様死細胞」を調製した上で捕食誘引物質の分離を開始した。結果、ネクローシス様死細胞では取り込みがやや少ない傾向にあることを見出し、今後の検討は主にアポトーシス様死細胞で行うことと決定した。現在は、アポトーシス様死細胞の大量調製と、粗分離を開始したところである。
また、「[段階-II]捕食誘引物質を複合化した高薬効性の光がん治療薬の合成開発」の準備段階として、量子ドットに近赤外光殺がん分子(rTPA)を接合した複合体を合成し、その一重項酸素発生能および光殺がん効果を確認した。一方、ドラッグデリバリキャリアとrTPAの複合化も行い、in vivoでの殺がん効果検証を進めるとともに、rTPAについて分子変換を行ったうえでのドラッグデリバリキャリアとの最適な組み合わせ探索も開始した。本研究の遂行によってドラッグデリバリキャリアとrTPAの相性により、内容分子の光殺がん性能が変化することが分かった。今後、最適化を進め最大効率で殺がん効果を示す複合体プロトタイプを完成させる。また、量子ドット単体では、光照射により表面エッチングが起こり、毒性が発現する可能性があるため、表面をシリカコートした量子ドットを調製し、rTPAとの複合化および殺がん効果の検証も行っている。量子ドットに直接rTPAを付けるよりも、シリカコート量子ドットとrTPAを複合化した方が、望まぬ共鳴エネルギー移動(FRET)を抑制でき、高い一重項酸素発生能および殺がん効果が見られることが分かった。これらの知見を基に、本段階IIの目的とするトロイの木馬型殺がん化合物として完成させる予定である。

今後の研究の推進方策

今後は、当初計画通り「[段階-I] 捕食誘引物質の粗分離、観察、構造決定による同定」をすすめ、現在おこなっているアポトーシス様死細胞からの捕食誘引物質の単離生成と同定・構造決定を行う。具体的に、膵がん細胞(PCI55細胞)を10分間の紫外線光照射のち37℃インキュベートによってアポトーシス誘導した細胞について、サイズ排除クロマトグラフィーによる分子サイズ分画を行った後、小~中分子サイズ(1kDa~50kDaを想定)をいくつかの分画に分け、さらに極性カラムによる分画を行う。ここで小~中分子サイズに限定した理由は、これ以上の大サイズ分子では非特異的な吸着や細胞選択が起こる可能性が示唆されたためである。分画成分をシリカコート量子ドットあるいは蛍光ビーズと複合化し膵がん細胞集団による捕食を種々の条件(捕食させる死細胞の種類、がんの進行度、酸素濃度などの培養条件) を変化させながらライブイメージング解析し、膵がん細胞による捕食の条件や選択則をコントロールする要素を見つけだす。これにより、膵がんにおける捕食のメカニズム解明と最適化条件設定を試みると同時に、次段階「[段階-II]捕食誘引物質を複合化した高薬効性の光がん治療薬の合成開発」のがん治療薬開発に利用する。
段階-IIとして、前段階(I)で同定した捕食誘引物質を、rTPAをはじめとする光殺がん化合物と複合化し、膵がんに取り込まれやすい光線がん治療薬を開発する。捕食誘引物質を化学修飾により接合した殺がん化合物を合成する。そして、3D培養膵がん組織中およびマウスin vivo実験における取り込み効率・光照射殺がん効果の評価を行い、新規光がん治療薬の開発を達成する。

次年度使用額が生じた理由

3次元培養に用いる基板について、研究開始前にあらかじめ作成済であったものを使用することが出来たため、この作成費および各種検証に見込んでいた予算が未使用となった。また、量子ドット原料について、市販品の購入利用を当初見込んでいたが、共同研究者による無償提供で賄うことができたため、予算未使用となった。また、動物実験に関しても初年度は実施せず、2年目に集中的に行うこととしたため、関連予算を未使用とした。
これら次年度使用額については、まず3次元培養に用いる基板の作成及び改良のために支出する予定である。基板材料の改良選定や、多ウェルプレート型の試作および実証を予定しいる。そして、動物実験についても、集中的な実施を計画している。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] メルボルン大学(オーストラリア)

    • 国名
      オーストラリア
    • 外国機関名
      メルボルン大学
  • [国際共同研究] KUルーヴァン(ベルギー)

    • 国名
      ベルギー
    • 外国機関名
      KUルーヴァン
  • [雑誌論文] An effective in vivo mitochondria-targeting nanocarrier combined with a π-extended porphyrin-type photosensitizer2021

    • 著者名/発表者名
      Satrialdi、Takano Yuta、Hirata Eri、Ushijima Natsumi、Harashima Hideyoshi、Yamada Yuma
    • 雑誌名

      Nanoscale Advances

      巻: 3 ページ: 5919~5927

    • DOI

      10.1039/D1NA00427A

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 光励起状態の高効率利用に向けた有機分子開発・物性解明とその生体応用2022

    • 著者名/発表者名
      高野 勇太
    • 学会等名
      2021年度「日本化学会北海道支部奨励賞」受賞講演
    • 招待講演
  • [学会発表] Visible fluorescent molecular sensors for singlet oxygen detection in solutions and cells2022

    • 著者名/発表者名
      Hanjun Zhao, Yuta Takano, Devika Sasikumar, Vasudevanpillai Biju
    • 学会等名
      日本化学会北海道支部2022年冬季研究発表会
  • [学会発表] Environmental Degradation of PbS and CdSe Quantum dots and the Related Toxicity2022

    • 著者名/発表者名
      Sobhanan Jeladhara、髙野 勇太、Vasudevan Pillai Biju
    • 学会等名
      日本化学会 第102会春季年会
  • [学会発表] Multimodal Detection of Circulating Tumor Cells Using Multifunctional Silica Particles2021

    • 著者名/発表者名
      Sobhanan Jeladhara、髙野 勇太、Vasudevan Pillai Biju
    • 学会等名
      2021年光化学討論会
  • [学会発表] The Release of Heavy Metal Ions from Engineered Nanomaterials: the Origin and Mechanism of Nanotoxicity2021

    • 著者名/発表者名
      Sobhanan Jeladhara、髙野 勇太、Vasudevan Pillai Biju
    • 学会等名
      Asian Photochemistry Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] フォトエキシトニクスを利用した有機化合物による細胞機能の光制御2021

    • 著者名/発表者名
      髙野 勇太
    • 学会等名
      生体機能関連化学部会 若手の会 第 32 回サマースクール
    • 招待講演
  • [学会発表] Development of Mitochondrial-targeted Nanocarrier for Photodynamic Therapy Using the Microfluidic Device2021

    • 著者名/発表者名
      窪田 文佳、山田 勇磨、サトリアルディ-、髙野 勇太、真栄城 正寿、渡慶次 学、原島 秀吉
    • 学会等名
      第15回次世代を担う若手のための医療薬科学シンポジウム
  • [学会発表] マイクロ流体デバイスを用いた癌光治療用ミトコンドリア標的型 ナノキャリアの構築2021

    • 著者名/発表者名
      窪田 文佳、山田 勇磨、サトリアルディ-、髙野 勇太、真栄城 正寿、渡慶次 学、原島 秀吉
    • 学会等名
      第42回生体膜と薬物の相互作用シンポジウム
  • [学会発表] 膵がん細胞集団の捕食機構を利用した高性能ミトコンドリア標的型光がん治療薬の開発2021

    • 著者名/発表者名
      髙野 勇太、宮武 由甲子、山田 勇磨、繁富 香織
    • 学会等名
      第7回北大・部局横断シンポジウム
  • [学会発表] 有機太陽電池材料にインスパイアされた細胞の光操作向け化合物の創出2021

    • 著者名/発表者名
      髙野 勇太
    • 学会等名
      日本薬学会北海道支部特別講演会
    • 招待講演
  • [備考] 第19回日本化学会北海道支部奨励賞を受賞

    • URL

      https://www.es.hokudai.ac.jp/news/2022-02-22-takano/

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公開日: 2022-12-28  

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