ハンチントン病は、CAGリピートの異常伸長により脳線条体の神経細胞が欠落する難治性疾患である。CAGリピート結合低分子であるNAをハンチントン病モデルマウスの脳線条体へ直接投与することによりCAGリピートが短縮することを見出している。NAの投与は、血液脳関門により血中からの脳内移行が制限されているため、外科手術を伴う侵襲的な直接投与に限られており、NA投与後のハンチントン病モデルマウスの表現型解析を困難にしている。本研究では、血液脳関門を介さず脳内送達可能で非侵襲的な経鼻投与に着目した。 2022年度までの研究により、Alexa594で蛍光標識したNA誘導体(NA-Alexa594-NH2)を経鼻投与後のNA-Alexa594-NH2の脳内動態の経時変化を組織透明化技術とライトシート型蛍光顕微鏡を用いた全脳イメージングにより調べ、複数の経路で脳内へと送達されていることが示唆された。2023年度は、NA-Alexa594-NH2の送達経路に関する知見を得るために、脳切片を作成し、NA-Alexa594-NH2の局在を詳細に解析した。その結果、経鼻投与直後と6時間後のサンプルにおいて嗅球におけるNA-Alexa594-NH2局在が異なることが明らかとなった。経鼻投与0時間後の脳切片では、糸球体層の糸球体周囲細胞にNA-Alexa594-NH2の蛍光が検出された。一方、経鼻投与6時間後の脳切片では、糸球体にNA-Alexa594-NH2の蛍光が検出された。これらの結果より、経鼻投与直後ではNA-Alexa594-NH2は細胞間隙や神経周囲腔を通過する細胞外経路を経て両嗅球に到達すると考えられる。また糸球体にNA-Alexa594-NH2の蛍光が観察されるのに6時間ほど時間がかかることから嗅上皮から嗅球への細胞内輸送が示唆された。
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