研究実績の概要 |
「DNAに保存された遺伝情報はRNAへと転写され、タンパク質へと翻訳される」というセントラルドグマの概念は、全ての細胞の生命活動の根幹を成す。では、DNAやRNAは、セントラルドグマに基づく遺伝情報の保存と伝搬を担う唯一の物質なのか? これに対し研究代表者らは、4’-チオDNAに保存された遺伝情報が、4’-チオRNAへの転写を経てタンパク質を発現する、いわゆる“合成セントラルドグマ (synthetic central dogma)”の実現に成功した (J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 17255)。本研究では、このsynthetic central dogmaのシステムを人工細胞へ内包し、さらに細胞が元来有する機能 (遊走・融合) をさらに付与することで新しい細胞システムの構築に挑戦する。 2021年度は、大腸菌の翻訳系において、人工細胞によるsynthetic central dogmaシステムの最適化を実施し、DOPCを主成分とする脂質積層膜から構成されGFP発現する人工細胞の構築に成功した。 また、2022年度は、synthetic central dogmaシステムを哺乳動物の翻訳系へと拡大すべく検討を実施した。検討の結果、3’および5’非翻訳領域の塩基配列がタンパク質発現効率に大きな影響を与えることが明らかとなった。しかし、最適化配列においても人工核酸による遺伝子発現系は、天然型核酸による遺伝子発現系と比較して、翻訳効率が大きく劣る結果となった。現在、リボーソムのコドン認識様式を考慮して人工核酸の導入位置を精密に制御するため、化学的手法による4’-チオDNAおよびの4’-チオRNAの合成を実施中である。
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